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Build Insiderオピニオン:高岡大介(6)

Build Insiderオピニオン:高岡大介(6)

人工知能時代にエンジニアはどう向き合うか

2015年8月4日

猫も杓子も人工知能な現在だが、これは単なる一過性のブームとして終わるのか。そして、エンジニアは人工知能とどう付き合っていけばよいのだろう。

高岡 大介
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 ここ最近、人工知能ブームが来ていますね。連日、人工知能関連のニュースが報じられ、第3次AIブームともいわれています。

 2012年にグーグルがYouTubeの画像より猫を認識したというDeep Learning(ディープラーニング、詳細後述)をきっかけに、シンギュラリティの話題と共に昨年末あたりから爆発的に広まってきた感じがあります。

 そのことについていまさら僕がとやかく言うよりも、詳しく知りたい方は松尾 豊先生の「人工知能は人間を超えるか」を読んだ方が100倍分かると思いますので、未読の方はぜひどうぞ。

 もう10年近く前になりますが、実は松尾先生と同じ研究センターに在籍していたことがあります。当時からずば抜けた才覚がおありでしたが、近頃は本当に目覚ましいご活躍ですね。連日各所で引っ張りだこで大変お忙しいようです。そんなお忙しい中、先日講演を引き受けていただいたのですが、100席があっという間に満席。増席してもすぐに埋まってしまうほどの人気ぶりでした。

人工知能ブームはこれからどうなる?

 僕が学生だったころはいわゆる「第2のAIの冬」時代でした。初歩的なパーセプトロンやニューラルネットワークを試したり、エキスパートシステムの研究をしている友人を隣に見たりしましたが、当時のマシンスペックやデータ量では話にならなかったことを覚えています。

 2000年代にWeb 2.0がブームになった、まだビッグデータという言葉もなかったころ、「CGMによる大量データから、データマイニングを使って新しい知識や集合知のようなものが得られないか」がよく研究されていました。今でこそ機械学習さえも人工知能としていわれていますが、その当時に使われていたサポートベクターマシンやベイジアンネットワークなどの機械学習の世界では、冬の時代の影響を受けてか、人工知能という言葉はむしろ避けられていたように思います。

 そういったことを思い返せば、今の人工知能の過熱ぶりには隔世の感がありますね。そんな昔話はどうでもよいのですが、それよりもこのAIブームが今後どうなるのかについて興味がありますよね。何人かの研究者や関係者に聞いてみると、今のブームの行く末に関する意見は大きく二つに分かれます。

 一つは、すぐに第3の冬がやってくる派。「今の異常なまでの盛り上がりは実力以上の期待をあおりすぎており、その実を知った世間はまた冷や水を浴びせられた格好となり、このブームは一時的なものとして終息するだろう。そのためブームに踊らされず、現実的なところを見極めて着実に進めるべきだ」という考えで、これはどちらかというと実際にビジネスをされている方に見られる意見です。

 もう一つは、「この盛り上がりを一時的なブームに終わらせるのではなく、これを端緒に人工知能の研究をより一層進めよう」という研究者的立場からの意見です。

 面白いことに、どちらも「今の人工知能についての世間の期待が高すぎるのではないか」と言っているんですね。今話題のDeep Learningは50年来のブレークスルーを起こすといわれているすごい技術です。しかしこの分野にちょっとでも詳しい方は分かるのですが、実はまだそれほど賢くありません。

Deep Learningの可能性

 Deep Learningの大きな特徴は表現学習ができることです。

 これまでの機械学習では特徴抽出をどうするかを人が調整する必要がありました。しかし、Deep Learningでは自ら特徴を検出し、学習することができます。そのため、「コンピューターが自ら概念を獲得した!」という冒頭のセンセーショナルなニュースで話題になりました。

 そのようなDeep Learningの可能性は確かに凄いものがあるのだけれど、それだけで人工知能の問題が全て解決するわけではありません。

 画像データの分類のような、特徴をどう捉えればよいか定義することが難しいものは、すでに人間を超える精度で分類できるようです。しかし、文章に何が書いてあるか、どういったことを話したのか、といった自然言語処理の分野では研究が進んではいますが、まだ大きな成果は出ていません。SFの世界でよくいわれるような、自ら学習しながら知識を構築し、得られた幅広い分野の知識を生かしながら人間と同等かそれ以上の思考を行い、結論を出すまでにはまだまだほど遠いものです。

 松尾先生によるとそこに至るには、まずは画像特徴の抽象化から認識精度の向上、次に画像などの視覚情報だけではなく、聴覚、嗅覚、触覚などマルチモーダルな抽象化による環境認識や行動予測、行為と帰結の抽象化によるフレーム問題の解消、推論やオントロジーと行為を介した抽象化、高次特徴の言語によるバインディングによる言語理解とシンボルグラウンディング問題の解決、バインディングされた言語データの大量の入力からさらなる抽象化や知識獲得、高次社会予測、といった6段階があるといわれています。

 Deep Learningによる表現の獲得は、今ようやくその出発点に立てたということです。

Deep Learningフレームワーク

 今、Deep Learningの研究は非常に盛んです。各国の大学や研究所を中心に研究・開発されているのですが、最近の研究は非常にオープンでコミュニティも活発です。

 Deep Learningのフレームワークとして有名なものがいくつかあります。

 最もポピュラーなのがBVLC(Berkeley Vision and Learning Center)で開発されているCaffe。他にもPythonの数値計算ライブラリTheanoをベースとしたPylearn2、FacebookがCUDAモジュールを開発し公開したTorchなどがあります。また、先月公開されたばかりの国産Deep Learningフレームワークchainerも話題になりましたね。

 「どれを使えばいいのか」とよくいわれますが、Caffeはアプリ向け、Deep Learningを道具として使いたい人向けと、Theano/Pylearn2とTorchは研究者向け、Deep Learningを作りたい人向けだといわれます。また、TorchとTheanoはよく速度比較されるのですが、得意分野が違うのと、両方ともアップデートのペースが速く、常に速度が改善されているため、どちらが優れているとは一概には言えません。

 素晴らしいのが、どのフレームワークもGitHubで公開されて、自由に使えることです。

 日本語での詳細なドキュメントはまだ少ないのですが、導入レベルの資料は徐々に増えています。また、AWSのマシンイメージやDockerイメージとして公開されているものさえあります。

 これだけ環境が用意されていると、触らないわけにはいかないですよね。

 単に資料を読むだけではなく、実際に自分で動かしてみるのとでは全然違いますよね。

 われわれエンジニアは、動かしてなんぼ。実際にその手でコードを書いてみて、得られる気づきは非常に大きいと感じています。デモだけでも動かして、その感じをつかんでおくことをお勧めします。

エンジニアとしてこの先生きのこるには

 今、Deep Learningは始まったばかりです。

 これからどんどん新しいアルゴリズム、フレームワークが出てくるでしょう。

 便利なツールやライブラリもできて、ますます使いやすくなると期待されます。

 十数年前を思い出してください。

 簡単なWebシステム一つを作るのも大変でした。

 最低限のインフラの知識は必要で、サーバーを立てるのも回線を引くのも手間とお金がかかりました。冗長化なんて考えるのには、高度に専門的な知識と高い専用器機が必要でした。

 しかし、今はアプリケーションのひな型を自動生成して、ちょこちょこっと変えて、Herokugit pushするだけでそれっぽいものができます。しかもタダです。スケールアウトなんてスライダーを動かすだけです。簡単なWebシステムを作るのにインフラの知識はほとんど要りません。

 今後の10年で、Deep Learningなどの人工知能技術もそれくらい扱いが簡単になり、多くの人は技術そのものではなくそれを利用したアプリに注力することになるでしょう。ほとんどのエンジニアにはネットワークの構成はもとより、素性設計すら不要になるかもしれません。

 シンギュラリティ肯定派的にいうと、アプリ開発までも不要になるでしょう。

 とはいえ、現状のWebシステムを考えてみてもインフラエンジニアが不要になったわけではありません。より大規模、効率化が要求され、むしろ高度に専門的な知識が必須となりました。

 Webアプリエンジニアにとっても、本当にインフラの知識が不要かというと、もちろんそんなことありえませんよね。

 幅広い知識があると、パフォーマンスチューニング、トラブルシューティングなど、いざというときに問題を素早く解決できます。また、新システムやサービスを作成・構築するときにも、柔軟な組み合わせが可能になり、選択の幅が増えます。

 少し前に人工知能によって無くなる職業が話題になりました。その中にはプログラマーも含まれていて物議を醸しました。さすがに2020年までにというのは言い過ぎだと思いますが、先に言ったような自動的にアプリまで作れるような時代になると、簡単なコードを書くだけの仕事は無くなるでしょうね。

 非常に高い専門性を持った、またはある程度の専門性+幅広い知見で全体を見渡せることが今後ますます求められます。そこに人工知能をうまく組み合わせることで、さらにレバレッジをきかせて大きなパフォーマンスが得られるでしょう。

 言い方を変えると、「人工知能に使われる側ではなく、使う側に回れ」ということです。

 そのためにも、今始まったばかりの段階で人工知能に触れておくことは非常に重要ではないでしょうか。

 と、大げさに語ってきましたが、何よりも新しい技術に触れることはとても楽しいですよね! ぜひチャレンジしてみましょう!

 ということで、僕も協力しているAITCオープンラボではDeep Learningハンズオンを開催しています!

 先日の「第1回 AITCオープンラボ Deep Learningハンズオン勉強会 ~Caffeで画像分類を試してみようの会~」はすぐ定員になってしまいましたが、大変好評でした。引き続き2回、3回と企画していきたいと思いますので、ぜひともAITCのfacebookページをご確認ください。

高岡 大介(たかおか だいすけ)

高岡 大介(たかおか だいすけ)

大手外資系企業でエンタープライズシステムの開発、国立研究所にてセマンティックWeb/オントロジー関連の研究に従事し、 技術顧問、開発、執筆、講演などITに関する仕事に広く携わる。

2015年より取締役 兼 最高技術責任者(CTO)として株式会社オープンウェブ・テクノロジーにジョインし、TechFeedを開発。Webフロントエンドだけでなく、バックエンド、インフラなどシステム全体に関わる。

AITC運営委員(エバンジェリスト)、Sencha UG共同運営者などのコミュニティ活動、 HTML5Exports.jp エキスパート、Build Insider オピニオンコラム執筆など。

 

※以下では、本稿の前後を合わせて5回分(第3回~第7回)のみ表示しています。
 連載の全タイトルを参照するには、[この記事の連載 INDEX]を参照してください。

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「あちら側」と「こちら側」。『Web進化論』から10年近くが過ぎようとしている中で、IoTによってネットとリアルの関係はどう変わろうとしているのか。

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6. 【現在、表示中】≫ 人工知能時代にエンジニアはどう向き合うか

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