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IT技術系ライティング入門(中編)

IT技術系ライティング入門(中編)

Web記事・雑誌記事・本のライターになるには

2014年9月26日 (2014年11月28日 更新)

IT系メディアで記事や本を執筆する前に知っておくべき、メディアで書く“きっかけ”のつかみ方や、タイトル/アウトラインの作り方について説明する。

デジタルアドバンテージ 一色 政彦
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 本連載では、以下の全3回に分けて、メディア向けに文章を書くための基礎知識を説明している。

 中編である今回の内容は、以下の通りだ。

 それでは早速、Webメディアや出版社で、記事/本などを書く方法について説明しよう。

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メディアで執筆するには?

本や記事を執筆するきっかけの作り方

 本当に本や記事を書きたいと思ったなら、思い付く方法で動いてみることだ。決まった方法があるわけではない。実際に動けば、何とか執筆できるケースが多いだろう。ヒントとして、執筆を依頼することになる場合によくあるパターンをいくつか紹介したい。

1知人からの紹介

 最も手っ取り早いのは、執筆したいメディアですでに本や記事を執筆している知人・友人から、「○○の記事を執筆したい人がいる」と編集者に連絡してもらうことだ。紹介される筆者は、信頼できる人である可能性が高いので、編集者も安心して記事執筆をお願いできる。

 そういった知人が回りにいない場合は、何らかのユーザーグループや学会などの各種コミュニティのメンバーになってみることだ。そういったコミュニティには、少なからず執筆経験がある人がいるだろう。

 また、イベントにスピーカーとして登壇したりすることで、そこに参加したり主催したりしている編集者と直接知り合い、話の流れで記事をお願いすることもある。編集者と合ったときには、「今、熱い」と思っているテクノロジについて雑談を交わしてみるとよい。

  •  余談になるが、1990年代、新しいIT技術の担い手は若い人が中心だったこともあり、筆者候補はもっぱら大学生だったので、大学のそばにマンションの一室(いわゆる「タコ部屋」)を借り、そこに有望な学生を集めて著者として育成するというパターンもあった。今ではあり得ない著者開拓方法だ。
2ブログで積極的に情報発信する

 ある分野に詳しい技術者として有名になれば、メディア側から執筆を打診されることもあるだろう。本や記事が目的だとすると、かなり回り道な手段にはなってしまうが、そういう情報発信をしておけば、本や記事の執筆を依頼する側は技術レベルや執筆スキルについては安心して発注できるという効果もある。

 また、ライターとして本や書籍をすでに執筆している場合でも、ブログなどで「これが得意分野です」とアピールできる証拠を作っておけば、編集部で新たな企画を検討する際に、「確かあの人はブログで書いていて詳しい」という話になり、執筆をお願いされる可能性が高まる。

3出版社やWebメディアに応募する

 ライター募集の窓口があれば(ちなみにBuild Insiderでは「お問い合わせのページ」で筆者を募集中)、そこに記事執筆を打診するというパターンだ。執筆したい記事タイトルやサンプルなどがあれば、応募と同時に送付するとよい(上記のようにブログで情報発信したり、イベント登壇したりしていれば、編集部も安心して執筆を依頼しやすいだろう)。ただしライター募集では、原稿料が安めに設定されている場合もあり得るので、その点では注意も必要だ(その目安として前回の内容が参考になるだろう)。

 もちろん特に募集していなくても、メールアドレスなどの問い合わせ窓口から勇気を出して打診することもできる。また、いきなり1人でメディアに飛び込む自信がなければ、執筆グループに属して、そこから案件をもらって書くという方法もある。

本や記事を書くのに文章スキルは必要か?

 詳しくは次回後編で説明するが、文章スキルよりも、技術内容が確かで、現場で培った知識・経験・オピニオンが豊富であることの方が重要だ。文章が分かりにくい場合でも、文の入れ替えや表現の修正、補足文の追加など、編集者側で改善できることはあるが、もともとの記事内容が良くないと、その改善を手伝うことは編集者には基本的に不可能だからである。

 メディアでは、ブランド価値を高めるためにも一定品質の読みやすい本や記事を出すことを目指し、編集者・校正者により編集や校正を行っている。この編集は、それなりに時間がかかる作業だ(とはいっても、どの編集者も作業は極力少なくしたいだろう)。だから、あまりに修正すべき文章が多く、それが何度も続く場合は、「この著者さんは大変」という印象になり、同じような執筆者がいるときにはお願いされる優先順位が下がってしまう場合はある。

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[Webメディア]執筆から公開までのフロー

 出版社やWebメディアによって違うと思うが、@IT/Insider.NETやBuild Insiderで行っている弊社の基本的なフローを説明しよう。

1編集会議で企画を通す

 まずは記事タイトルを提出し、編集会議で承認を得る必要がある。

 原稿料を支払って筆者に記事を発注する以上、編集者はその記事を発注する価値・理由を編集部員に説明し、全員から承認を得なければならない(書籍などでは、さらに上の会議で検討されて、そこで却下される可能性もある)。例えば「現在の記事のPV傾向から、どういうタイトルの記事は、どれくらいのPVが取れるはずだ(=参照数が増えるので、広告がより高く売れるようになる)」または「PVは取れないかもしれないが、こういった記事内容が、どういった読者層にとって必要だ(=社会的に意義があり、メディアの価値向上につながる)」などを主張するわけだ。その説明材料として、基本的に以下のような内容を、事前に筆者に送ってもらっている。

  • 記事タイトル
  • 概要・目標
  • 読者ターゲット
  • アウトライン(=目次)案と連載回数(あくまで執筆予定の案)
2執筆する

 企画にGOサインが出たら、実際に執筆を開始する。

 通常、原稿提出の締め切りは、2週間後~1カ月後程度で、長くても2カ月後程度に設定している(筆者と相談しながら決めている)。

 1回分のWeb記事の長さは、基本的に最大で7500字未満としている。これがどれくいの文量かというと、こちらのレゴ マインドストームの記事がほぼそれぐらいの文字数である。Wordに貼り付けると20ページ程度になる。あくまでこれは長い方なので、Wordで10ページぐらいを目安に執筆すればよい。かなりたくさん書かなければならない気分になるかもしれないが、これぐらいの文章量だと、書き始めるとすぐに到達してしまうことも少なくないので、怖がらずに取りあえず書き始めてしまうのがお勧めだ。

 ちなみに原稿のフォーマット(例えば太字などの文字装飾や、コラムやコードなどの枠を指定するためのタグ類)として、Build Insiderの場合は独自書式の他、GitHub-flavorなMarkdown書式の原稿も受け付けている(ただし、編集時に独自フォーマットに変換される)。

3編集者が査読・編集・校正する

 原稿執筆が完了したら、編集者に原稿を送る。担当編集者が、その原稿のフォーマットを記事制作用に整えたり、分かりにくい文章を修正したり、誤記などの校正やメディアごとの基準での用語統一を行ったりする。最後に編集部内で複数の編集者がチェックした後、筆者に原稿を戻す。

4著者が校正する

 筆者は原稿内容の最終確認を行い、必要があれば編集・校正を行う。場合によっては、34が何度も繰り返される。

5記事が公開される

 著者校正が完了したら、編集者に最終原稿を送る。その原稿からHTMLページを生成して、Webサイト上に公開する(ちなみに実際の公開日時は、著者校正が届いた段階で編集部がスケジューリングする)。

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タイトル/アウトラインの作り方

 筆者として一番悩ましいのは、最初に企画を提出する段階かもしれない。そこで最後に、企画のタイトルやアウトラインの作成をうまく行うヒントを紹介する。

タイトルの作り方

 まず難しいのが、記事のタイトル作りだ。特にWeb記事においては、主に以下の3種類ぐらいの方針に基づいて、タイトルを決定できると考えている。

  • ASNSなどで話題になり、短期的に大ヒットさせる
  • B検索エンジンで、長期間クリックしてもらう
  • C学習型のコンテンツで、連載を最初から最後まで読んでもらう

 それぞれ簡単に説明しよう。

ASNSなどで話題になり、短期的に大ヒットさせる

 「記事 タイトル」などで検索すると、いろいろな情報があるので、それらを探ってみるとよいだろう。筆者がよく使うパターンには以下がある。

  • 有用情報をまとめた記事: 例えば「○○のまとめ50選」や「◇◇に役立つ7つの機能」
  • 新機能や新技術のレポート記事: 例えば「○○の新機能」や「◇◇を試してみた」

 いずれの場合もできるだけ、“誰にどんなメリットがあるか”が伝わるような説明的な修飾を付けた方がよい。例えば「Chromeの新機能」を説明する記事であれば、「Web開発者の生産性が5倍になる」という修飾を付けて、「Web開発者の生産性が5倍になる、Chromeの新機能」というような形だ。

B検索エンジンで、長期間クリックしてもらう

 Aのように説明的にしてしまうと、タイトルも長くなり、検索エンジンにクリックしてもらうには不向きになる。検索エンジン向けには、より短いタイトルで、しかも検索されたいキーワードが全て、タイトルに入っていることが重要になる。例えば「jQuery UIのコンポーネント」で「Progressbar」を解説した記事であれば、「Progressbarを利用する方法」というタイトルではなく、「jQuery UIのProgressbarを利用する方法」というタイトルの方が、検索時にクリックしてもらいやすいだろう。

C学習型のコンテンツで、連載を最初から最後まで読んでもらう

 例えば全20回の「Python入門」のような連載の場合、各回のタイトルをABのようにしてしまうと、連載の目次ページのタイトルがバラバラになりやすく、連載全体としてはまとまりがなくなってしまう。各回をバラ売りではなく、連載全体をまとめて教科書的に読んでほしいのであれば、書籍の章と同じようなタイトル付けにした方がよい場合もある。

アウトラインの作り方

 これは、「何を書きたいか」「記事をどうまとめたいか」で変わってくる。アウトラインの作成を苦手に感じる人は、参考にしたい記事の見出しレベルを研究し、まねてみるのが手っ取り早いだろう。例えば「プログラミングやマークアップで特に役立つ、Sublime Textの標準機能」という記事では以下のようなアウトラインになっている。同じような記事を書きたい場合は、同じような見出し粒度になるように、独自のアウトラインを作成すればよい。

 ・テキストエディターとしての機能
 ・Sublime Textが提供している機能
  ・選択の拡張(Expand Selection)
  ・マウスを利用した選択
  ・複数行の選択
 ・検索・置換
  ・ファイル内の検索機能
  ・複数ファイルを対象にした検索
 ・……以下、省略……

 次回後編では実践編として、より多くの人にとって分かりすい技術解説記事を執筆するためのライティングのコツを、筆者の経験に基づいて紹介する。

更新履歴

2014/11/28
もともとは「Web記事/雑誌記事/本を書くための基礎知識&基本フロー」という名前の記事でしたが、半分に分割しました。本稿はその後半です。
IT技術系ライティング入門(中編)
1. なぜ記事・本を書くのか? Webメディア/出版の基礎知識

IT系メディアで記事や本を執筆する前に知っておくべき、メディアの現状や、メディアで書く理由について説明する。

IT技術系ライティング入門(中編)
2. 【現在、表示中】≫ Web記事・雑誌記事・本のライターになるには

IT系メディアで記事や本を執筆する前に知っておくべき、メディアで書く“きっかけ”のつかみ方や、タイトル/アウトラインの作り方について説明する。

IT技術系ライティング入門(中編)
3. 分かりやすい記事を書くための原則とテクニック

「文章を書くのは苦手」という人に向けて、10年以上の編集作業で蓄積してきたノウハウを紹介し、「こうすると、もっと分かりやすい記事が書けるかも」という提案を行う。

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