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IT技術系ライティング入門(後編)

IT技術系ライティング入門(後編)

分かりやすい記事を書くための原則とテクニック

2014年12月2日

「文章を書くのは苦手」という人に向けて、10年以上の編集作業で蓄積してきたノウハウを紹介し、「こうすると、もっと分かりやすい記事が書けるかも」という提案を行う。

デジタルアドバンテージ 一色 政彦
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 「文章を書くのが苦手なので……」

 編集者をしていると、このように言われてメディア向けに記事や本を書くのをためらわれ、結果的に書いてもらえないということがよくある。その方は素晴らしい情報や技術を持っているのに、それを文章として記録し、より多くの人に伝えられないのは、いろいろな意味で大きな機会損失だ。

 確かに、勉強会やカンファレンスなどのイベントに登壇して発表するなど、他にも情報を公表する手段はある。でも、何千人、何万人という人の前で登壇する機会はまれであるし、記録映像やスライドが視聴・閲覧できるとしても、やはりその視聴数は、本やWeb記事の購読者数にはなかなか及ばないだろう。しかも文章にしておけば、再確認したい箇所をピンポイントで検索して読み返せるので、情報を活用しやすく、情報を受け取る側のメリットも大きい。

 そういった点から、本やWeb記事を執筆することを、本稿ではあらためてお勧めしたい。

 「でもやっぱり分かりやすい文章を書くのは難しいから……」という人に向けて、「こうすると、もっと分かりやすい記事が書ける(かも)」という提案をしたい。本稿では、筆者が10年以上この仕事を続けた中で蓄積してきたノウハウを共有する(本連載の内容は、あくまで筆者個人の考えに基づいており、他の編集者や筆者と意見が異なる場合もあるかもしれない。その点はあらかじめご了承いただきたい)。

 本連載では、以下の全3回に分けて、メディア向けに文章を書くための基礎知識とライティングテクニックを説明している。

 後編である今回の内容は、以下の通りだ。

 それではまずは、文章を書き始める前に意識してほしいことや、心構えについて説明しよう。

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テクニック1 文章を書き始める前に意識すべきこと

本や記事を書くのに文章スキルは必要か?

 これについては前回書いたので、ここでは簡単に1フレーズで再確認しておこう。

文章スキル技術スキルや知識

 文章スキルの未熟さを気にして、必要以上に記事や本を書くことをためらう必要はない。筆者自身もWebメディアで記事を書き始める前に、文章技術に関する本を読んだりして、文章スキルを高めるための努力をしたことがある。しかし、何カ月、何年と、いくら練習をしていても、試合に出なければ本当の実力は付かない。ある程度、文章の書き方を学んだり執筆練習したりすることは重要だが、1週間なり1カ月なり、その段階が終わったら、

「準備は整った」

と考え、今すぐ執筆を始めよう! あとはオン・ザ・ジョブ・トレーニングで文章スキルを磨いていけばよいのだ。

文章にはTPO(時間/場所/場合)がある

 全ての執筆を「文章スキル」とひとまとめにしてしまいがちだが、実際には以下のように、文書の目的ごとに文章の表現方法やスキルが異なる。

  • 小説: 物語を想像させるために、比喩や風景描写、会話などを駆使する
  • ニュース: 日時場所/出来事(事実)から、その具体内容に入っていく
  • マニュアル: 機能や手順を省略なく順番通りに説明する(辞書的
  • 技術解説記事: 技術内容を分かりやすく解説する(読み物的教科書的

 技術解説記事を書く人が良いニュースを書けるとは限らないし、ニュースが書けるからといって小説が書けるわけではないだろう。このように目的ごとに、文章の書き方は異なる。だから「目的に合った書き方で書く」ということを意識して執筆する必要があるのだ。なお本稿は、この中の技術解説記事の書き方にフォーカスを当てている。

読者ターゲットごとに書き方は異なる

 技術解説記事といっても、その読者ターゲットによって、さらに書き方や内容が変わってくる。

 例えば「DNS」関連の技術解説記事を書くとしよう。すると読者ターゲットによって、以下のように書く内容や書き方を変えることになる。

  • 初心者向けであれば? → DNS自体の概説が必要。 → 比較的マス向きで、メディアの記事では多くの場合、こういった方向性になる。
  • 技術に詳しい人向け? → DNS概要は省略して詳細に。 → 比較的ニッチな内容になることが多いので、ブログ記事などロングテール向き。

 もっといえば、上記のような内容であってもこれがタイアップ記事(=記事広告)となれば、その商品の購入者(ビジネス意思決定者)層を意識した内容にしたり、その商品の品位に合わせた言い回しを選択したり(例えば経済的な専門用語を使うなど)、タイアップ記事を読む人を意識した文章にすることが多いだろう(少なくとも筆者は、通常記事の書き方タイアップ記事の書き方が明確に違う)。

 まとめると、「誰に対して、何を伝えたいのか」を執筆前に明確にしておいた方がいいということだ。

「技術解説記事」の執筆方法とは?

 「では具体的に、例えば初心者向けに技術解説記事を書くための方法は何?」と質問したくなるだろう。それに対し、「確かに原則はある」と回答することは可能だ。ここでいう「原則」とは、上記のような「執筆前に意識しておくこと」のことだ。これに加えて、後述するようなテクニックを活用することで、より良い文章に仕上げることもできるだろう。

 しかし残念ながら、具体的な手順や方法、統一的なルールや文章テンプレートがあるわけではない。あくまで文章は人それぞれなのだ。逆に人それぞれだからこそ、筆者ごとの面白みが生まれている。

 もっというと、そういった面白みを生むためにも、記事ごとに筆者ならではの独自性や遊びが欲しい。前述したように技術解説記事は、機能や手順を正確に記述したマニュアルではなく、あくまで読み物だったり、何かを学ぶための教科書となったりするものだ。そういった記事には、読者を楽しませたり引きつけたりする何かしらの工夫(例えばちょっとした関連エピソードのコラムや例え話など)が欲しい。

 こういった工夫は記事ごとに考える方がより良い。筆者自身もそうだが、数多くの記事を書いていると、自分自身に文章のテンプレートのようなものができてしまい、どれも同じような書き方になってしまう。こういったワンパターン化はいずれ読者を飽きさせてしまうので、「技術解説記事は読みもの・教科書である」という観点からあまり良くない。

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テクニック2 分かりやすい構造を持った記事を書くために

 文章執筆前の心構えを押さえたところで、本稿の主題となっている“分かりやすい記事”を書くためのテクニックの説明に入っていこう。

分かりやすい記事とは?(1):文書構造を大切にしよう!

 まずは記事全体を俯瞰(ふかん)した視点から、記事(や本)の構造に関するテクニックを紹介する。

 最初に知っておいてほしいのは、

文章構造が分かりにくい」のと「文章表現が分かりにくい」のは違う

ということだ。ここでいう「文章構造」とは、起承転結などの文章全体の論理構造のことだ。

 文章構造は記事の根幹を成すもので、文章の善しあしを決定的に決めてしまう。ここで失敗すると、文章表現をいくら良くしても意味が無い。例えば編集者が記事を編集する際、文章表現を修正するのは比較的楽な場合が多い。それに対し、構造を直すのは論理構造の再構築になるのでかなり大変な作業(=基本的には筆者にしかできない作業)となってしまうからだ。

 ではどうやって分かりやすい文章構造を作ればよいのか。そのためのテクニックは存在する。

分かりやすい文章構造にするテクニック

 文章構造に自信がない人は、次の書籍を一読することをお勧めする。ここでは、この書籍のアイデアをベースにして筆者が実践しているテクニックを説明しよう。

考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則』(ダイヤモンド社)

ピラミッド原則の考え方

 分かりやすく物事を人に伝えようとすれば、例えば「概要→詳細→事例→反例」などのように、物事を順序立てて説明する必要がある。こういった論理立てのテクニックを、この書籍では「ピラミッド原則」と呼んでいる。本稿の内容を、このピラミッド原則に基づいてツリー状の図にすると次のようになる。

図1 本稿の文章構造をピラミッド型で図にしたもの
図1 本稿の文章構造をピラミッド型で図にしたもの

 つまり、文章を書き始める前に、“プロット”として図1に示すような構造を、(わざわざ図にしなくてもよいので)テキストの箇条書きなどで作成するとよい。こうすることで、文章構造で大きく破たんせずに済むようになる。

1記事=1テーマにする(ピラミッドの頂点)

 そして、このようにツリー状にすることによって、何も考えなくても自動的に「1記事=1テーマ」となり(図1では「ライティング テクニック」)、テーマの中の各トピックも「1トピックにつき1テーマ」となる(図1では「書き始める前に」「分かりやすい文章構造」など)。しかも記事内の章や節の粒度の違いも発見しやすくなり、全体の粒度を統一しやすくなるなどの効果がある。記事全体の構造が理路整然としていれば、それだけで読者が内容の全体像を把握するのに役立つだろう。

文章構造を作成する(実践編)

 このような文章構造を作成するという点でも、前回説明したアウトライン作成は重要だ。なお、アウトラインを作成するための専門ツール(アウトラインプロセッサー)も存在するが、筆者の場合は、テキストエディターを使って箇条書きで書き出し、全角スペースによりインデントする(=前に余白を付ける)ことで、上の図のような階層構造を表現している(正直なところ、わざわざ専門ツールを使うよりも、テキストエディターの方が自由度もあり、テキストをそのまま使えるので便利だと思うのだが……)。

 あくまで筆者の場合の実践方法ではあるが、アウトラインを作成した後は、それを頭の中に入れた状態で、上から自由に執筆している。書き終わった後に、アウトラインと比較して、漏れている部分を加筆したり、話が脱線しているのをコラム化したりして、全体の構造を整えている(これは次のMECEの話にも通じる)。

MECE: 重複なく・漏れなく(ミーシー、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)

 文章構造について、もう1点だけテクニックを紹介しておこう。

 論理構造に問題があると、文章全体の中にダブりや漏れが発生しやすい。それらを極力排除するように努力することで、過不足のない効果的なドキュメントに仕上がる。ダブりや漏れを無くす、この原則は、MECEと呼ばれている。

 次の図は、文章構造に問題がある場合の例だ。「旅行市場全体」について説明している記事だとしよう。この場合、文章構造を気にせずに執筆を始め、「海外旅行」について分析し、次の章で「個人旅行」について分析して、最後に「旅行市場」を総括して記事は終わってしまう。この例の場合は、「海外旅行」と「個人旅行」で重複する説明があったり、「国内市場」の分析が漏れてしまったりしているというわけだ。

図2 MECE: 重複なく・漏れなく
図2 MECE: 重複なく・漏れなく

 文章全体を俯瞰してみると、この文章構造にはダブりや漏れがあるとすぐに気付くはずなのだが、文章スキルだけに頼り、上から順に書いてしまうと、こういった論理構造のミスが起こりやすくなる。そういった観点からも、やはりアウトライン作成は重要だ。執筆時にはMECEを意識して、より効果的な文書作成を目指してほしい。

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テクニック3 必要十分な情報レベルの記事を書くために

分かりやすい記事とは?(2):読者の知識レベルに合わせよう!

 テクニック1で「読者ターゲットごとに書き方は異なる」と説明した通り、

  • 幅広い読者がいるマスがターゲットなのか
  • それとも専門家が主な読者なのか

など、読者の知識レベルによって分かりやすい文章内容も変わってくる。よって、読者の知識レベルを意識して、それに応じて説明の強弱を変えた方がよい。以下はその強弱の判断例である。

専門家に通じやすい簡潔な書き方(=専門用語や略語など)

 例えば「KPI」と書いた方が、話が早い人と、こう説明されると何のことか分からない人がいるだろう。記事のターゲット読者が、その分野の専門家であれば「KPI」と書くべきだ。しかし一般の読者がターゲットであれば、KPIという用語についての解説を加えるか、「達成目標」などもっと分かりやすい表現に言い換えて、さらに全体の説明ももっと平易にした方がいいだろう。

 なおWeb記事であれば、それが専門家向けの記事であっても、マスの一般読者が読んだときに理解のヒントになるよう、せめてキーワードには解説ページへのリンクを入れてあげると親切だ。

「計算式/コードを出した方が分かりやすい」など

 プログラマーであれば、逐一説明されるよりも、「コードで示してくれた方が分かりやすい」という気持ちを分かってもらえるだろう。このように読者ターゲットによっては、あえて全部説明しない方が分かりやすい場合もある。

分かりやすい記事とは?(3):読み間違われにくい文章にしよう!

 読者ターゲットの話をしたが、現実的には記事や本の読者を執筆者が選べるわけではない。読者は多様であり、その人が蓄積してきた知識やバックグランドは、筆者自身の知識や経験と同等ではない。どうしても自分が読んで「素晴らしい」と思う内容や文章表現で書いてしまいがちだが、現実には必ずしもその意図通りに読んでくれるとは限らない。

 何が言いたいかというと、そういった自分の想定外の読者が読んだときに、誤解や誤読が生まれないようにした方がよいということだ。そうなりそうなところを極力排除する(また、排除できるように意識して、文章を執筆・推敲する)。

 特に、自分にとって当たり前のことは、省略しがちなので注意してほしい。例えば「データはログに保存される」と書いたとしよう。そのシステムを知っている人にとっては、言わなくても当たり前のことかもしれないが、全くの初心者にとっては「どこのログ?」とつまずいている可能性がある。筆者にとっては「明示的に書かない方が、文章リズム的に読みやすい」と感じる場合もあるかもしれないが、現実にはここで読者が「この記事は分かりにくい」と脱落したりしているわけだ(もちろん「それが分からないのは読者対象ではない」という考えであれば、その考えを尊重するものの、メディアの立場としてできるだけ多くの人に通じる文書に仕上げたいわけで、ちょっとガッカリしてしまう……)。

読み間違われにくい文章にするテクニック

 読み間違われにくくする文章テクニックはいくつかある。具体的に以下のようなことは、多くのメディアで実践されているだろう。

  • 主語の省略や、目的語の省略などは、ここで省略してOKか考える(文脈上や一般常識などで省略した方がよい場合もある)
  • 語句は正式名称にする(大文字・小文字や、スペースの有無などが違うことで、不要に読者を惑わせている可能性がある)
  • 画面表記と完全に一致させる(一致していないと「これのこと?」という質問につながってしまう可能性がある)
  • プログラミングでメソッドなのかプロパティなのかなどを明示する(スムーズに内容を理解するのに役立つため)

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テクニック4 分かりやすい文章表現にするTips

 以上の3つのテクニックで、本稿が本当に伝えたかったことは説明できた。以下では文章表現における細かなテクニックを、簡単に紹介していこう。

意味のない冗長な言い回しを排除する

「することが」「を行う」などは回りくどい
  • 「確認することができる」 → 「確認できる」
  • 「確認を行ってみよう」 → 「確認してみよう」

 これらの表現には特段の意味はなく、言い回しが長いだけだ(ただし、上記のように表現を変えると、リズム感が悪くなったり、ニュアンス(=微妙な意味の違い)が変化したりするケースもあるので、一律に置き換えることもできないので注意すること)。

汎用表現は、具体表現に置き換える

 「する」は、名詞を動詞化する際に何にでも使える便利な汎用表現だ。一方で、意味がボンヤリしてしまう特徴がある(もちろん意図的にそうしたい場合もあるが)。

汎用表現を具体動詞に変えると文意が明確に

 文意を明確にしたい場合は、「する」が意味している本当の動詞(=適切な動詞)を使うことだ。

  • 「動詞にする」→ 「動詞に変更する」

 この例の場合、「する」が表す本当の動詞は「変更する」などである。このように動詞を具体化することで、その文自体がギュッと濃縮したイメージに変わる。これは前述のタイアップ記事の執筆などで、品位を上げたいときにも使えるテクニックだ(逆に“ラフさ”を演出したいのであれば、汎用表現に変えたり、説明的な箇所を擬態語などの感覚的な表現に変えたりすればよい)。

 ここで、「適切な動詞をどうやって選べばいいのか分からない」という人もいるだろう。このようなときに類語辞典(シソーラス)が役立つ。類語辞典については、本稿の最後で紹介する。

好まれないことがある表現

 以下のような表現は、ケース・バイ・ケースで判断し、注意して使った方がよい。

  • 差別を連想させてしまう語: 例「片手落ち」
  • 慣用句や四字熟語: 使うべき場面では使ってもよい。だが、使わずに済む場面なら極力使わず独自表現にした方が、文章が面白くなりがち
  • 「!」などの感情表現: 本質ではない部分でわざと目立たせるものとして嫌われがち
  • 太字化: まさに左が太字化されているが、「見づらい」と言われたことあり
  • カタカナ化: 「これ何でカタカナになっているの?」と言われたことあり。確かに「サトラレ」のように通常の意味と違う「特別な意味」の単語であればカタカナ化した効果があるが、「通常のイミと同じ」というように目立たせるためだけにカタカナ化した場合は、「何か特別な意味があるのか」と読者を戸惑わせるだけになる可能性がある

文を分かりやすくする

 文章表現を分かりやすくするためのTipsとしては、『理科系の作文技術』(中公新書 (624))など、参考になる本がたくさんあるので、ぜひ書店で手にとって探してほしい。以下では特にお勧めしたいTipsを紹介する。

文はできるだけ短くする(文をつなげすぎない)

 基本的に、文をつなげればつなげるほど、一息つくタイミングがなくなり、文意の理解の妨げになる。文が複数つながっていて、各文の間に句点「。」が打てそうな場合は、できるだけ打つようにした方がよい。

逆接以外の「が」の用法は極力避ける

 例えば上で、

  • 「まさに左が太字化されているが、『見づらい』と言われたことあり」

と記述した部分は、↓

  • 「まさに左が太字化されている。『見づらい』と言われたことあり」

と書いた方が「日本語として基本的に正しい」とされる。通常、接続助詞の「が」は逆接の意味で使われるので、その前後の文で意味が逆接的になっている必要があるのだ(上の文は順接的になっている)。

 なお、上記の「が」は、前文が後文を説明するための「前置き」として用いられている(実際には、この用法の「が」を使った方が短く書ける場合がある。例えば上記の「が」の意味を正確に反映した正しい日本語にすると、「まさに左が太字化されている。このように太字化されているものを『見づらい』と言われたことあり」のように書かなければ同じニュアンスの文章にならない)。この「前置き」の他、順接用法として「単なる前後の文のつなぎ」などで使われるが、逆接の意味と間違えやすいし、文をムダにつなげてしまうため、嫌われる傾向にある。

主語と述語はできるだけ近づける

 次の文は、『日本語の作文技術』(朝日文庫)から引用したものだ。

  • 「私は小林が中村が鈴木が死んだ現場にいたと証言したのかと思った。」

  ↓

  • 小林が中村が鈴木が死んだ現場にいたと証言したのかと私は思った。」

  ↓

  • 中村が鈴木が死んだ現場にいたと小林が証言したのかと私は思った。」

  ↓

  • 鈴木が死んだ現場に中村がいたと小林が証言したのかと私は思った。」

 一番上の文は、主語と述語が完全に離れており、読んでも全く意味が理解できない。下に行くほど、それぞれの主語と述語を近づけていっている。徐々に意味が理解しやすくなるのを感じ取っていただけるだろう。

主語と述語が遠く離れる場合は、主語の後に読点「、」を打つ

 全ての文が、上のように主語と述語を近づけられるわけではない。例えば主語に長い修飾が付くと、述語に近づけにくい。

  • 「鈴木が死んだ現場に中村がいたと小林が証言したのかとこれから記事を執筆しようとしている私は思った。」

  ↓

  • 「これから記事を執筆しようとしている私は鈴木が死んだ現場に中村がいたと小林が証言したのかと思った。」

 上の文例であれば、無理をして主語を述語に近づけず、主語を先頭に置いたまま、その主語の後に読点「、」を打った方が読みやすくなる。

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テクニック5 その他の、執筆に役立つTips

読みやすいWeb記事の書き方

平均3文ぐらいを1パラグラフに

 Web記事はディスプレイ上で読まれるため、行間の空白が多い方が眺めやすく、気楽に読める。そのため、紙の本よりも細かく段落化した方が読みやすい。

見出しも平均5パラグラフごとぐらいに

 同じ理由で、細かく見出しがあると視覚的に強弱が出て読みやすい。

画像をできるだけたくさん入れる

 文章だけの記事はどうしても息苦しい。図が全くない記事でも、文章内容の説明を図としてビジュアル化するなどすれば、読みやすさの面で効果がある(と書いている、この記事に図が少ないのだが……)。

 また、図にしなくても、重要なところを文章から箇条書きに変えると、文章の中にメリハリが出て読みやすくなることがある。なお、箇条書きではなくにするという方法もあるが、表はどちらかというとに近いので「本文や箇条書きと同じようには使いづらく、かえって読みにくくなる」と筆者は感じている。表にする場合は、「本文に説明が書かれていて、それが表で見やすくまとまっている」という、図と同じような使い方にするのがお勧めだ。説明として本文と同じように読んでほしい箇所は、表や図ではなく、箇条書きにした方がよい。

記事の書き出し(冒頭・序文)

 執筆に不慣れな場合、書き出しが一番難しい。解決策として、以下を提案したい。

  • 書き出しの執筆は、最後に回して先に他を書く
  • 最新ニュース「イベントが開催された」から入る
  • 読者への質問「○○を知っているか?」にする
  • 記事内容を紹介する「本稿では○○を解説する」
  • 自分の感動や出来事などのエピソードから入る

便利なライティングの道具

 最後に、筆者が常用しているライティング道具を参考までに紹介しよう。

ATOK(Mac/Windows/iOS/Android)

 日本語IMEのATOKは特に物書きには人気がある。理由は、通常のIMEより少し賢い変換を行ってくれるし、後述する辞書が使えたりするからだ。

 筆者の場合は、MacとWindowsで使っている。iOS版やAndroid版もあるが、機能面や辞書がまだ充実していないので使っていない。しかし充実してきたら、ついにPCやMacではなくiPhoneやAndroidタブレットで執筆・編集するようになるのかもしれない。

辞書: 共同通信社 記者ハンドブック 第12版(最新版)

 テレビ・ラジオなど、口頭で説明することが多い現場では、『NHK漢字表記辞典』という辞書(ATOK版はこちら)が用語の統一基準として広く用いられている。一方、新聞・出版社など、文章で説明することが多い現場では、『共同通信社 「記者ハンドブック」新聞用字用語集』が広く使われている。@ITやBuild Insiderでも、漢字の使い方や用語をこの記者ハンドブックの基準にできるだけ統一しているただし、新聞と同じ漢字の使い方になるため、一般社会やIT業界の標準的な漢字・用語の使い方と比較して違和感があるものも少なからず存在している。だが、この本以上に手軽に用語をルール化できる辞書はないため、消去法的な理由で、これを基本ルールとして使っている現場は少なくないだろう)。

 これらの辞書は、紙の本として出版されているが、漢字をチェックしたいときにページをめくるのは非常に面倒で、時間がもったいない。そこで筆者はATOK辞書を購入して、IMEで漢字に変換する際に注釈が出る状態にしている(図3)。

図3 辞書: 共同通信社 記者ハンドブック 第12版
図3 辞書: 共同通信社 記者ハンドブック 第12版

 この例は「よい」と入力してスペースキーを押して変換しているところだ。変換を始めると、「良」「よい」「佳」「好」……と変換可能な漢字が表示され、「好い」という漢字は、記者ハンドブックでは「良い」か「よい」という表現に変えるように指示が出る。

 また右側には、「どういう表現のときに、どの漢字を使うのが適切か」という説明が表示される。例えば図3の例では、「頭がよい」の場合は「頭が良い」という漢字が適切で、「気性がよい」の場合は「気性が善い」という漢字が適切であることが分かる。

 基本的に、こういった適切な漢字使用への校正作業は、編集者・校正者の作業範囲になるので、通常、筆者が気にする必要はない。ただ、こういった基準で漢字などを修正していることをぜひ知っておいてほしい(別に「漢字の使い方が間違っている」という理由で校正されているのではなく、単に用語を統一しているだけなので)。

辞書: 広辞苑

 広辞苑を知らない人はいないだろう。日本語の百科事典だ。

 適切な漢字や単語を使っているか、意味をチェックしたい場合は多々あるので、筆者の場合、記者ハンドブックの次に多用している。ちなみに、変換中にEndキーを押すと、ATOKの辞書を切り替えられる(図4)。

図4 辞書: 広辞苑
図4 辞書: 広辞苑
辞書: 角川類語新辞典

 類語辞典は、前述したように適切な漢字を選択したいときや、表現を変えて文章のマンネリ化を防ぎたいときなどに利用する。上の2つと比べると出番は少なくなるが、ATOKで辞書として準備しておけば、調べたいときにすぐに調べられて非常に便利だ。

図5 辞書: 角川類語新辞典
図5 辞書: 角川類語新辞典

 以上の3つの辞書が、筆者にとっての三種の神器である。これら以外にも、「図版の作成にはPowerPointがお勧め」など、紹介したいライティング道具はいろいろとあるが、本稿はかなり長くなったので、別の記事に回し、今回は以上で終わりとする。

 今回は「IT技術系ライティング」の実践編として、より多くの人にとって分かりすい技術解説記事を執筆するためのライティングのコツを、筆者の経験に基づいて紹介した。この情報が、皆さんの執筆の一助となればうれしい。

 本連載は、1年ごとぐらいで定期的に最新情報に改訂したいと考えているので、何かしらフィードバックや他に知りたいことなどがあれば、PCで本ページを開き、ページ下部にあるFacebookコメント欄に記入してほしい(コメントは基本的に即座に一般公開される)。

IT技術系ライティング入門(後編)
1. なぜ記事・本を書くのか? Webメディア/出版の基礎知識

IT系メディアで記事や本を執筆する前に知っておくべき、メディアの現状や、メディアで書く理由について説明する。

IT技術系ライティング入門(後編)
2. Web記事・雑誌記事・本のライターになるには

IT系メディアで記事や本を執筆する前に知っておくべき、メディアで書く“きっかけ”のつかみ方や、タイトル/アウトラインの作り方について説明する。

IT技術系ライティング入門(後編)
3. 【現在、表示中】≫ 分かりやすい記事を書くための原則とテクニック

「文章を書くのは苦手」という人に向けて、10年以上の編集作業で蓄積してきたノウハウを紹介し、「こうすると、もっと分かりやすい記事が書けるかも」という提案を行う。

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