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HTML TIPS

HTML TIPS

HTML標準仕様などを決める、W3Cによる勧告のプロセスとは?

2015年1月8日

W3Cが制定するWeb標準の技術文書では、最初の「草稿」から、最終段階の「勧告」になるまで、いくつかのステップを踏む。そのプロセスについて簡単に説明する。

デジタルアドバンテージ 一色 政彦
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 HTML5などの仕様を標準化する過程で、「草稿」や「勧告」といったプロセス名が使われていたが、その流れが「よく分からない」と感じたことはないだろうか。本稿では、このプロセス*1について簡潔に紹介する。

  • *1 2014年8月5日に勧告プロセスが変更された(具体的には「Last Call」と「Candidate Recommendation」が統合された。参考:「W3C Updates Recommendation Track Process | W3C News(英語)」)。本稿は、この最新のプロセスに基づいて説明している。

W3Cとは?

 あらためて簡単に説明すると、HTML/CSS/JavaScriptといったWeb技術の仕様や指針を標準化するための技術文書(Technical Report)(以下、TR)を作成しているのが、「World Wide Web Consortium」(通称、W3C)という団体だ。

勧告のプロセス

 W3Cが作成するTRは、図1に示すプロセスを経て成熟させていき、最後に「W3C勧告」というレベルに到達することで完成する。

図1 TRにおける4つの成熟レベルと、その進行プロセスの概念図

参考:「World Wide Web Consortium Process Document(英語)」。

4つの成熟レベル(Maturity Levels)

 TRでは基本的に、次の4つの成熟レベルで、段階的に完成度を高めていくことになる。

  1. 作業草案(Working Draft、WD) コミュニティ(=W3Cメンバーや公的機関、その他の技術系の組織など)によるレビューのために、W3Cの各作業グループ(Working Group)により発行される文書。作業草案は何度も(基本的に3カ月に1回は)改訂(Revising)されて、勧告に向けて進められていくことになる。もちろんその過程で勧告へは進めない作業草案の内容も出てくるが、それらは基本的に作業グループノート(後述)として公開される。ちなみに、最初の公開草案は「First Public Working Draft(FPWD)」と呼ばれる。
  2. 勧告候補(Candidate Recommendation、CR) 作業グループが持つ要件を満たし、すでに広くレビューを受けているため、勧告として承認されることが期待される文書。W3Cは勧告候補を発行することで、より広いコミュニティに対してシグナルを送って、実装も含めたレビューを実施してもらい、その情報を収集する。また、諮問委員会による公式レビューも開始され、W3C勧告として公開される文章として推奨できるか、作業草案に戻すべきか、もはや中止すべきかなどが判断される。
  3. 勧告案(Proposed Recommendation、PR) 十分な品質があり、W3C勧告になり得ると、W3Cのディレクターから認められた文書。勧告案には、大量の修正を行うことはできない(その必要があれば、作業草案や勧告候補のレベルに差し戻すことになる)。この過程では、勧告候補から始まった、諮問委員会による最終レビューの締め切りが確定する。
  4. W3C勧告(W3C Recommendation、Rec) 広範の同意を形成した後、W3Cのメンバーとディレクターの承認を受けた仕様指針要件の文書。W3C勧告の「Web標準」として広く活用できるようになった最終段階。

 上記以外にも、下記のような成熟レベルも規定されている。

  • 作業グループノート(Working Group Note) 公開されたことのある仕様に関する資料で、例えば設計原則/ユースケース/要件/良いプラクティスの非標準ガイドや、作業がストップしている仕様や、賛同が得られなかった新標準の仕様など。
  • 廃止された勧告(Rescinded Recommendation) W3Cがもはや推奨していない勧告(勧告内容の全部が非推奨)。

勧告プロセスの実例: W3C勧告となったHTML5の場合

 2014年10月28日に「HTML5」がW3C勧告となっているが、このときの勧告プロセスを、前述の成熟レベルに基づいて表1にまとめてみた。

成熟レベル文書公開日
初期草案(FPWD) 2008年1月22日
作業草案(WD) 2008年6月10日、2009年2月12日、4月23日、8月25日、2010年3月4日、6月24日、10月19日、2011年1月13日、4月5日
勧告候補(CR) 2011年5月25日*2
作業草案(WD) 2012年3月29日、10月25日
勧告候補(CR) 2012年12月17日、2014年4月29日、6月17日*2、7月31日
勧告案(PR) 2014年9月16日
W3C勧告(Rec) 2014年10月28日
表1 HTML5の勧告プロセス

参考:「HTML5 Publication History - W3C(英語)」。

  • *2 当時は「Last Call(最終草案)」と呼ばれていた。

HTML 5.1の勧告スケジュール

 HTML5の勧告プロセスを見たが、ついでに次バージョン「HTML 5.1」の勧告スケジュールについても紹介しておこう。情報源として参考にした発表資料「Plan 2014」が2012年9月のものなので古いが、これによると表2のようになる計画だ。

成熟レベル文書公開が予定されている期間
初期草案(FPWD) 2012年 第4四半期
作業草案(WD) 2012年~2015年
勧告候補(CR) 2015年 第1四半期
勧告案(PR) (不明だが前例に倣うとRecの1カ月ほど前)
W3C勧告(Rec) 2016年 第4四半期
表2 HTML 5.1の勧告プロセス

編集者の草案(Editor's drafts)

 作業草案について説明したが、HTML 5.1の仕様を見ると、次のように2つの文書が存在するのが分かる。

  • HTML 5.1 通常の作業草案(WD)。仕様策定中の技術情報としての公式コンテンツであり、開発者が活用してみたり、本や記事に書いたりするなら、この情報を参考にする。
  • HTML 5.1 Nightly 文書を編集している仕様策定者らの草案(=編集者の草案: Editor's drafts)。“Nightly”という語感からイメージされるように、この文書は頻繁に更新されており、作業草案に記載するに至っていないHTML最新機能仕様や、仕様設計ミスの修正、主にWHATWG仕様からの実験的な機能仕様などが追記・修正されている。

 作業グループによっては、このように編集者の草案という文書を作成する場合もある。なお、この編集者の草案は、全くの非公式であるため、必ずしも作業グループ内の同意があるとも限らず、当然ながらW3Cが(その時点で)推奨している仕様でもない。

【コラム】WHATWGのLiving Standardとは?(※2015/10/29追記)

 W3Cによる勧告プロセスでは、仕様の「確定」版を発行するのが目的なので、実際にドキュメントが発行されるまでに数カ月~数年とかなりの時間がかかる。一方で、継続的に議論・実装・検証・メンテナンスされている生の標準仕様・標準機能(Living Standard)は数日~数カ月などともっと短期間でアクティブに変化している。そこでWHATWG(Web Hypertext Application Technology Working Group)は、そういった確定前のLiving Standardのドキュメントを、W3Cの仕様文書とは分離して公開しているというわけだ。

処理対象:W3C カテゴリ:基本
処理対象:WHATWG カテゴリ:基本
処理対象:勧告(Recommendation)のプロセス カテゴリ:基本
処理対象:編集者の草案(Editor's drafts) カテゴリ:基本
処理対象:HTML 5.1の勧告スケジュール カテゴリ:基本
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2. 最新のHTML5/CSS/JavaScript API/CSS機能が使えるかを判断するには?

HTML5.1などの最新仕様を使いたい場合、それが対象ブラウザーでも使えるかどうかを判断する方法を説明。実際に試す前に「Can I use」の情報を確認しよう。

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