ゼロから分かる電子工作の必須知識シリーズ(2)
乾電池 ― 身近で重要なパーツを知る
電子工作の電源としてよく用いられる乾電池の基礎として、種類や容量、接続方法を解説。また、電子工作で使う電圧に合わせる方法も説明する。
このシリーズでは、電子工作入門以前の人がスタートラインに立つために知っておいた方がよい情報をまとめていきたいと思っている。
第1回は電流と電圧を取り上げた。第2回目である今回は、電子工作の電源として一般的な電池、その中でも乾電池に注目してみる。
電流と電圧が分かってくると身近だったはずの乾電池について不思議に思えてくることがある。乾電池は、電圧が一般的に1.5[V]であるが、最大電流([A])はどれくらいなのだろうか。また、電池の種類によって何が違うのだろうか。今回は、そのあたりを説明する。
そもそも「乾」電池とは
電池には、化学反応により電気エネルギーを生み出す化学電池、メタノールや水素などの燃料から電気エネルギーを生み出す燃料電池、生物の活動から電気エネルギーを生み出す生物電池(バイオ電池)がある。乾電池は化学電池に含まれる。
化学電池は1800年にイタリアの物理学者ボルタによって発明された。どのようにして電気エネルギーを得ているのかといえば、電解質溶液(ボルタの電池では食塩水を利用)に2種類の金属を浸したときに、金属のイオン化傾向が異なるとイオン化傾向が小さい金属から大きい金属の方に電流が生じることを利用している。
当初の化学電池では電解質は液体を使っていたので液漏れや寒冷地では使えないなど使い勝手が悪かったが、1887年に日本の屋井先蔵により電解質溶液が漏れない「乾電池」が発明された。屋井が発明した乾電池は、その後、屋井乾電池として1892年のシカゴ万博に出品された地震計に使われるなどさまざまな用途で使用されるようになった。なお、屋井は特許出願の費用が払えないために出願が遅れ、同時期にドイツのガスナーが乾電池の特許を取得していたため、乾電池の発明者としての屋井の名前が知られることはなかった。
乾電池にはさまざまな種類がある
乾電池のサイズや電圧はIEC 60086(JIS C 8500)で規格化されている。各サイズの規格名を表にまとめると次のようになる。なお、製品として流通していないサイズについてはグレーで網掛けをしてある。
マンガン | アルカリ | ニッケル | リチウム | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
緑 | 青 | 赤 | 黒 | ||||
単1形 | R20S | R20C | R20P | R20PU | LR20 | ||
単2形 | R14S | R14C | R14P | R14PU | LR14 | ||
単3形 | R6S | R6C | R6P | R6PU | LR6 | ZR6 | FR3 |
単4形 | R03 | LR03 | ZR03 | FR03 | |||
単5形 | R1 | LR1 | |||||
単6形 | LR8D425 | ||||||
006P形 | 6F22 | 6LR61/6LF22 |
マンガン乾電池
マンガン乾電池は、材料に二酸化マンガンを用いた乾電池だ。性能により外装の色が、一般(緑)、高容量(青)、高出力(赤)、超高性能(黒)と異なっており価格も異なる。
アルカリ乾電池
アルカリ乾電池は、材料に二酸化マンガンに加えて水酸化カリウムと塩化亜鉛を使用している。モーター駆動など連続的に大きな電流が必要な用途に使用されている。
ニッケル乾電池
ニッケル乾電池は、材料に二酸化マンガンに加えてオキシ水素化ニッケルを使用している。ニッケルマンガン電池とも呼び、オキシライド乾電池(Panasonic)などが有名だ。消費電力の大きな機器に使用した場合、アルカリ電池よりも寿命が長かったために、デジカメなどに主に使用されていた。しかし、デジカメの低消費電力化とアルカリ乾電池の性能向上により、ほぼ市販されなくなってしまった。
リチウム乾電池
リチウム乾電池は、材料に二酸化マンガンリチウムや金属リチウムを用いた乾電池だ。他の乾電池と同じ1.5[V]のものは単三形と単四形で発売されているが、リチウム乾電池として一般的なのはボタン形の形状の3.0[V]の方だ。
マンガン電池の10倍の容量を持つが、大電流が必要な用途には向かず、少ない電流を長い間流すような用途が向いている。また10年保存しても90%の容量を維持する。そのため非常用や軍用電源に使用されている。
なお、名前は似ているが充電のできるリチウムイオン電池やリチウムイオンポリマー電池と異なり、リチウム電池は充電ができない。
乾電池の容量
乾電池として一般的に流通しているマンガン乾電池やアルカリ乾電池には、1時間でどれくらいの電流を流せるのか、つまり、電池の容量(=放電容量)がどれくらいかの記載がない。これは、マンガン乾電池やアルカリ乾電池は、消費電流が少ない機材に使用した場合と多い機材に使用した場合では取り出せる容量が変化するため、記載したくても記載できないからだ。
スペックとしてはなくても参考値くらいはないかと探してみたらPanasonicのWebページに情報があった。このページの「定電流連続放電時の持続時間」の表には、20[mA]/100[mA]/1000[mA]の電流を流したときに、終始電圧(この例では0.9[V])まで電圧が低下するまでの時間を測定した結果が掲載されている。その表から(※表にない部分は表内の[詳細グラフ]から)、結果内容を抜き出したのが次の表だ。
電流 | |||
---|---|---|---|
20mA | 100mA | 1000mA | |
アルカリ単1形 | 800 | 130 | 5.5 |
アルカリ単2形 | 380 | 55 | 2.2 |
アルカリ単3形 | 140 | 20 | 0.9 |
アルカリ単4形 | 58 | 8.2 | 0.35 |
マンガン単1形 | 400 | 60 | 2 |
マンガン単2形 | 180 | 26 | 0.4 |
マンガン単3形 | 45 | 6.8 | 出力不可 |
マンガン単4形 | 24 | 2.5 | 出力不可 |
このように、使用する電流が多くなると急激に持続時間が短くなる。これは、乾電池が電流を多く使っていると内部抵抗が大きくなり、電流を取り出しづらくなる特性によるものだ。例えばアルカリ単1形であれば、750[mA]程度に使用電流を抑えることで10時間くらいは持続することになるが、1000[mA]まで使用電流が増えると表2にあるように5.5時間と短くなってしまう。
電池容量の単位は、[mAh]、すなわち電流([mA])×持続時間([h])
となる。試しにアルカリ単1形の電池容量を計算してみると次のようになる。
電流 | |||
---|---|---|---|
20mA | 100mA | 1000mA | |
アルカリ単1形 | 16,000 | 13,000 | 5,500 |
※各値の計算方法は蛇足だと思うが、誤解を避けるため説明しておくと、
表2の[20mA]/[100mA]/[1000mA]の各列」×「[アルカリ単1形]行の各値
で計算して、左から20mA×800h=16000mAh
、100mA×130h=13000mAh
、1000mA×5.5h=5500mAh
となる。
このように使用条件により電池容量が実質変わってしまうため、乾電池には電池容量が記載されていないのである。
乾電池の接続と電圧
乾電池は直列に接続した場合と並列に接続した場合では取り出せる電圧が異なる。
直列
直列接続では、乾電池のプラスを次の乾電池のマイナスにつなぎ(図1)、複数の乾電池で長い1本の乾電池のように扱う。
このように接続したときに取り出せる電圧は、1.5[V]×乾電池本数
となる。図1のように2本を直列に接続すると3.0[V]が取り出せる。
並列
並列接続では、乾電池のプラス同士、マイナス同士をつなぎ、複数の乾電池を束にして回路につなげる(図2)。
このように接続したときに取り出せる電圧は、1.5[V]のままである。例えば図2のように2本を並列に接続しても、取り出せるのは1本のときと同じ1.5[V]だ。ただし、電池容量は2倍になるので、電流値が1本のときと変わらなければ2倍の時間使用できるようになる(実際はそんなに単純ではないのできっちり2倍にはならない)。
なお、電子工作では2倍の電池容量よりも省スペースを気にすることが多いため、あまり並列に乾電池を使う場合は少ない。
電子工作で電圧を合わせる方法
最近の電子工作でよく使う電圧は、
- 1.8[V]
- 3.3[V]
- 5.0[V]
だ。しかし、乾電池は1.5[V]なので、直列につないでも1.5[V]、3.0[V]、4.5[V]、6.0[V]となり必要な電圧と一致しない。そこで活躍するのがレギュレーターだ。例えば、3.3V・500mAが出力できる三端子レギュレーターを使えば、6.0[V]を3.3[V]にして出力できる。
まとめ
乾電池の種類などを調べてまとめてみたが、いかがだっただろうか。種類によって用途が異なるなど意外な発見があったのではないだろうか。
1. 電流と電圧 ― 電子工作を始める前の基礎知識
前知識ゼロだけど電子工作を始めたい人のための連載がスタート。電子工作に入門する前に知っておいた方がよい情報を分かりやすくまとめる。まずは電流と電圧を知ろう。
4. ダイオード ― 知ると便利な基本部品
“Lチカ”で光らせるLEDなど、電子工作でよく使われるダイオード。しかしその使いどころを想像するのは難しい。その特性を詳しく知ることで、なぜそこにダイオードが組み込まれているのかを理解できるようになろう。