Build Insiderオピニオン:大関興治(4)
2年目となった海の家プロジェクト。今年の結果は如何に?(前編)
今年の海の家プロジェクト、お盆までの前半戦の出来事を紹介。台風の影響をもろに受けた今年のお盆商戦。そんなとき現れた○○おやじとは?
読者のみなさま、こんにちは。
前回原稿を書いているときはまさに海の家まっただ中だったのですが、気が付けば今年の夏もあっという間に過ぎ去っていきました。今年で2回目のチャレンジとなった海の家プロジェクト。これまでの連載できっかけや効果などを書かせていただきましたが、この執筆の瞬間は今年の結果が全て出そろっています。今回は振り返りながらお盆までの前半戦の出来事を書きます。
今年は大きな2つの目標を設定
1つ目の目標は、高品質なサービスで「50,000円/人・日」を達成すること。もう1つは、廃棄ロスを極限まで減らすこと。
今年の海の家では、8月第3週までの土・日曜日と、お盆の期間の特定日に対し、サービスレベルを落とさずに1人当たり5万円の売上を達成目標とする指標を与えました。
「50,000円/人・日」、これを高いと取るか安いと取るかはお任せします。このサイトをご覧になっている方々の多くのビジネスモデルに当てはめて説明しますと、いわゆる「100万円/月単価」のヒトと同じ稼ぎ高です。もちろんICT系に従事されていれば、それほどの価格ではないとお感じになるかもしれません。
しかし、1品500円平均の商材を扱うビジネスにおいては結構なハードルだと思います。
この「特定日」のメンバーは平均すると社員5名+アルバイト2名の合計7名体制。つまり7名で35万円以上の売上が目標ということになります。
ちなみに昨年の顧客単価は約920円でしたので、目標を達成するには約380オーダー会計相当になります。営業時間は10時~17時の7時間ですから1時間当たりでは54会計。つまり、おおむね1分強に1オーダーの流れを崩さずに7時間連続してご提供し続けるということ。「全員」が「54会計分」の「全てのオペレーション」を「7時間」連続しているということになります。
この数字で見ると、相当大変なチャレンジであることがお分かりいただけると思います。これを達成しろというのが課された命題です。なお、ラーメンはこだわりを持った新メニューということもあり、特注の平麺をゆでるだけでも2分20秒かかります(笑)。
また、もうひとつの廃棄ロスの削減。飲食店にとって「ロス管理」はビジネスの成功を大きく左右する重要なポイントです。ましてや海の家。高波や台風など天気でお客様の入りが大きく左右されます。
まずは昨年のデータを基に検証パターンを計画させました。日別のお客様の入り想定×天気(天気予報)に、今年のデータを掛け合わせて売上傾向を加味し、結果的に4つのモデルを作りました。しかも上記の売上目標があります。ロスにビビってばかりいては、目標は達成できません。逆に40万円の売上を達成するための準備を勘だけでやってしまって裏目に出たら、それこそ数日分の利益が一瞬で無くなるインパクトです。
このような相反する目標を同時にチャレンジすることに意味があります。
前者で身に付けてほしいことは、「オペレーションルールよりも創意工夫と臨機応変」。後者は「データ活用による裏付け」です。
私たちが運営するスペースは複数企業でのコラボレーションですので、残念ながら他社様のデータや売上は公開するわけにはいかないのですが、イメージでお伝えするならば100坪1軒の海の家で、弊社の運営する「極鶏.Barフレスポ若葉台店」の1年間の売上をやや上回る程度です。海の家の実質営業日はわずか45日程度です。まさに短期決戦なのです。
「2カ月しかないんだから傾向も何もないよ。運だよ。ほれ、台風であんたんとこも大変だっぺ?」
「いやいや2カ月だからこそ成果を出すには積極的なデータ活用が重要なんだよ」
台風の影響でここ数年では最低の訪問客数に終わりそうな江の島。海の家ビジネスに対する大方の意見は、これら2つにキレイに分かれています(笑)。
生きるビッグデータおやじ出現!
台風の影響をもろに受けた今年のお盆商戦。海の家店主たちがあれやこれや議論したり、スタッフたちがミッション達成のために頑張ったりしているさなか、面白いお客さまが現れました。
ある日、元気な70代くらいの男性がいらっしゃいました。
「海の家でここまでやるんだ!」ということに共感いただき、何度かお越しいただくうちにいろいろとお話しをさせていただく仲になっていきます。これも海の家の楽しいところです。
この男性、生まれも育ちも湘南。藤沢や辻堂で飲食店やスーパーなどを営んでいるとのこと。自称、空の色や空気感、海の色などでおおむね少し先までの天気が分かるという方です。
湘南の商売の基本は「三方よし※」と「天気」だそうなんです。三方よしは疑う余地もありませんが「天気」とはこれまたいかに?
- ※「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」という近江商人が大切にしていた商いの精神。
「俺らの時代にはパソコンなんてねーもんだからよ、全部帳面よ。でもパソコンが出てきてエクセル(あえてこういうニュアンスで書きますが)が出て楽になったんだよ。みんなが俺の指示を見ながら仕事できるからな。おかげでたくさんの店を出せたよ。」
「地元のヤツは海の色や風で行動を判断するからね。海の色が深くて風が湿ってたら、いろいろと買い込んで外に出ねーんだよ。ウチはほぼ全部の店が地元のヒトしか来ない。だから地元のヒトの行動パターンがキモなんだよ。でもな、ウチのセガレもそうなんだけど、今の若いヤツラはそういうのが全く分かっちゃいねーんだ。だから俺が俺なりの視点で決めた数字と翌日の計画をエクセルにまとめて送るんだよ。それ繰り返してたらやっと分かってきたみてーだけどな。エクセルって便利だよな、アハハハ!」
後日談ですが地元の方曰く、この男性、藤沢や辻堂の商店主たちの中では有名な方だそうです。ビックリしたのは何十年もの経験値を生かし、エクセルだけで××億円もの年商をたたき出しているとのこと。
「兄ちゃんたちも天気を根拠に、あのパソコンでやってるんだろ?」
私たちの運用に興味津々のご様子。
「天気か?天気予報か?それとも海の色か?」
経験と勘のビッグデータ化そのものですよね(笑)。
もちろん農業なんかでは当たり前かも知れませんが、商業ベースで戦後からこういうやり方している方がいる。Excelだけで(笑)。生まれた時代がもう少し遅ければ、この業界で相当なキーマンになったのかもしれません(笑)。
お盆商戦の台風、与えられたミッション、そしてビッグデータおやじの登場で、2014年海の家の結果はどうなったのでしょうか? 次回コラムではかなり具体的な数字を書いてしまおうと思います。
大関 興治(おおぜき こうじ)
(株)セカンドファクトリー Chief Visionary Officer
大手私立大学の情シスにて(SI企業より出向)学内システムを構築したのがキャリアのスタート。メインフレームからのダウンザイジングを経験すると同時に、Webテクノロジに大いなる可能性を感じていたこと、あるキッカケを得て、1998年にセカンドファクトリー社を設立。
一貫してビジネス&UXを重要視したチーム形成と開発スタイルを提唱。現在は関連会社2社の取締役ほか、複数の非IT企業の社外取締役として「ヒト」づくりがメインの仕事、かつライフワーク。
※以下では、本稿の前後を合わせて5回分(第1回~第5回)のみ表示しています。
連載の全タイトルを参照するには、[この記事の連載 INDEX]を参照してください。
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今年の海の家プロジェクト、お盆までの前半戦の出来事を紹介。台風の影響をもろに受けた今年のお盆商戦。そんなとき現れた○○おやじとは?
5. 2年目となった海の家プロジェクト。2014年の結果は如何に?(後編)
2014年の海の家プロジェクトは成功したのか失敗したのか。読者と担当をやきもきさせた後編がついに登場。夏はアツかったのかサムかったのか!?