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Co-Creation(共創)を生み出す新たな手法「ハッカソン&アイデアソン」(後編)

Co-Creation(共創)を生み出す新たな手法「ハッカソン&アイデアソン」(後編)

ハッカソン/アイデアソンの開催方法、成功させるポイントと課題

2014年9月12日

アイデアソン/ハッカソンを実際に開催するには? 開催の流れ/体制/構成要素について説明。また、これまでの経験から得られた、成功させるためのポイントや、アイデアソン&ハッカソンが抱える課題について紹介する。

高知大学地域協働学部 講師 須藤 順
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 前編である前回は、アイデアソンとハッカソンの概要や事例を紹介し、「テーマ」「主催者」「目的」という切り口で分類した。後編である今回は、実際にアイデアソン/ハッカソンを開催する方法について説明する。

4. アイデアソン&ハッカソンの開催方法

(1)アイデアソン/ハッカソンの開催の流れ

 アイデアソン/ハッカソンの事前準備から開催までの基本的な流れは、下の図の通り、大きく事前準備と当日運営に分けられる。

図1 アイデアソン開催の流れ

出所:CCL資料より

図1 アイデアソン開催の流れ
図2 ハッカソン開催の流れ

出所:CCL資料より

図2 ハッカソン開催の流れ

 事前準備では、企画やテーマの設定、会場選定、ファシリテーターやメンターのアサイン、告知募集、協賛企業との交渉、申込者のチーム分け、当日使う各種フォーマット類の準備などが必要となる。

 当日運営では、チェックインやインプットセミナー、アイデア創出、活用データや技術、APIの準備、受付や会場案内、お茶やお菓子の準備、記録作成、時間管理などが必要となる。

 また、ハッカソンの場合、イベント期間内ではプロトタイプはできてもサービスを完成させるには時間が短い場合もあるため、事後にフォローを行い、時には、事務局側で開発にコミットするといったことも検討すべきである。

 なお、「チーム分け」については、上記では「事前準備」に挙げているが、当日出会った者同士を、アイデアソンなどのプロセスでマッチングをしていく手法もある。どちらを取るかは、ハッカソン後の参加者のアクション継続をどのように仕込むか、あるいは後述する「交流的要素」を意識しつつ、開催意図やイベントに確保できる時間に合わせてアレンジすればよい。

(2)必要な体制

 当日の運営は、下記表の通り、チームで行うことになる。アイデア創出をファシリテーションする人材とともに、技術面へのサポートを行えるメンター的な役割を持つ専門家も運営者側にいることが望ましい。

役割 内容 必要人数
司会 ハッカソン全体の場づくりと時間管理を行う 1名
技術メンター 技術やビジネスモデル面で参加者をサポートする 3~5名
ファシリテーター 全体の設計とファシリテーションを行う 1名
サポートスタッフ ファシリテーターや技術メンター、参加者の世話係 1~2名
受付 参加者の管理を行う 1~2名
記録 写真撮影、録画、レポート作成などの記録を行う 2~3名

出所:CCL資料より

表1 ハッカソンの実施体制案

(3)アイデアソン/ハッカソンを構成する4要素

 アイデアソン/ハッカソンには、1サービス開発要素、2技術トライアル要素 、3交流要素、4スキルアップ要素、という4つの要素によって成り立っている。

1サービス開発要素: 新たなサービスやビジネスを生むことを目的とするもので、新規事業創出の意図も含まれる。
2技術トライアル要素: 新たな技術の拡散や活用、ブラッシュアップを図るもので、参加者が新たな技術を試したり、既存技術のブラッシュアップを図ったりすることを指す。
3交流的要素: 異分野の人や専門家、組織内外の日常は関わることの少ない他者との共同作業と、共体験を通じた相互交流を通じて、チームビルディングの重要性や協働能力の向上、共創体験を通じて相互理解を図ることである。
4スキルアップ要素: 成長の余地がある技術者などが日常業務ではチャレンジすることのできない自由な開発の場を通じて、スキルアップを図るものを指す。

 なお、各要素についてはそれぞれ、図3の通り、ウエイト分けをすることが可能で、開催する際に、どこを重視するものなのかを主催者側は意識し、それに合わせたファシリテーターやメンターの選定、会場選定、参加者募集の方法やルートの検討、活用するアイデア創出やアイデア収束のツールを検討することが望ましい。

図3 アイデアソン/ハッカソンの4要素のイメージ

5. アイデアソン/ハッカソンを成功させるポイント

 アイデアソン/ハッカソンの企画運営にはいくつかのコツがある。

ポイント1: インプットの重要性

 アイデアソン/ハッカソンの成果は、インプットの中身やルールの設定によって、大きく左右される。よりイノベーティブなアイデアや成果を得るためには、インプット部分の設計は繊細に行うべきだ。一定の制約条件を付すこと、対象領域が抱える課題に徹底的にフォーカスし、問題意識を掘り起こすこと、あるべき姿を想像し、これまでの延長では考えられないアイデアに結び付けることなどが、考慮すべき部分となる。

 インプット部分が曖昧であったり、フォーカスすべき領域やテーマが伝わりきらない場合、主催者側が期待する方向とは異なるアイデアやプロトタイプが出来上がったり、参加者が自己解釈で開発を行ってしまうこともある。

 どういう成果へ結び付けたいのか、先述のアイデアソン/ハッカソンのどの要素を重視したいのかによって、インプットの中身、話題提供者の選定、活用するアイデア創出の手法なども変わってくることを頭に入れてインプット部分の設計を行うとよい。

ポイント2: 出口戦略の位置付け

 アイデアソン/ハッカソンを開催する際には、出口戦略の位置付けを明確にしておくことが望ましい。

 イベント自体の開催が目的なのか、サービスを実際に市場投入することを目指すのかによって、どういった出口戦略を描くのかは変わってくる。イベント開催が目的であれば、特段成果についてコミットしない場合もあれば、賞金を提供し、その後は参加者に任せることもある。一方、市場投入を目指すとなれば、その後のブラッシュアップや開発経費の提供、ファンドやメンターなどとのマッチングなども考えられる。

ポイント3: アイデア創出手法の活用

 より良いアイデアやサービスを生み出すためには、すでに確立されているさまざまなアイデア創出手法を活用することが望ましい。例えば、アイデア創出では、プレインストーミング、親和図法、シナリオグラフ、ブレイクザバイアス手法、バリューグラフなどが考えられ、アイデア収束では、ビジネスモデルキャンバスやCVCA(顧客価値連鎖分析)や、カスタマージャーニーマップが考えられる。また、プロトタイピングでは、ペーパープロトタイピングやストーリーテリング、スキット(寸劇)などがある。

 時間的余裕があれば、想定ユーザーの観察なども取り入れると、よりアイデアの質は高まる。

 例えば、(株)CCLが行った「介護×ITマッチングワークショップ」では、参加者の中に介護従事者を巻き込み、IT技術者らと一緒にアイデア創出を行うことで、現場の声をくみ取る工夫をした。その結果、介護サービス利用者向けのサービス案以外に、介護事業者のニーズをくみ取ったアイデアが出るなど、参加者にとって未知の領域であっても、専門分野に従事する人達の要求を満たし得るアイデアが生まれることが分かった。

ポイント4: フォローアップ

 短期的な開発イベントであるアイデアソン/ハッカソンは、その時間的制約から、完全なサービスを作り上げることは難しい。そこで、成果を具現化するためには、イベント後のフォローアップが重要となる。

 制作されたプロトタイプをブラッシュアップしたり、完成に向けて開発を継続したりしてもらうために、参加者にコンタクトを取り、完成までサポートすることが大切である。

 アイデアソン/ハッカソンで形成されるチームは必ずしもそれまで関係があった面々ではないことから、イベントが終わってしまうと関係が途絶えてしまうことも見受けられる。そのため、なかなか実際にサービスとして市場投入されるケースは少ない。主催者側がしっかりとフォローアップすることで、イベントを通じて開発されたサービスが市場投入されることで、参加者全員がその開発にコミットしたという参加感が生まれ、今後のアイデアソン/ハッカソンへの参加意欲を高めるといった効果も期待できる。

ポイント5: 小さなゴールの設定によるピボットの促し

 より良いサービス開発につなげるための運営の工夫としては、細かい時間管理と小さなゴール設定を複数行うことが挙げられる。

 アイデアソン/ハッカソンを開催すると、最初のうちは参加者の集中力も高く、意欲的だが、時間が経過するにつれて緊張感がなくなってしまう場合がある。そこで、所々に中間報告や相互フィードバックの時間を設定し、経過報告を他の参加者やメンターの前で行う時間を設けることが有効となる。

 報告の期限があることでメリハリのある時間管理が可能となるばかりか、発表し合い、他のチームの開発状況を知ることで、いい意味での競争意識が芽生え、技術者としての本能に火を付けることが期待できる。

 また、短いスパンでプロトタイプを報告することは、ピボットを促すことにもつながる。つまり、メンターや他の参加者からのフィードバックを受けて、より良いサービス開発へ向けてコンセプトや仕様の変更を行う機会となる。

ポイント6: 参加者の多様性確保

 言うまでもなく、参加者の多様性の確保は、アイデアソン/ハッカソンを実り多いものにするためには欠かせない。エンジニア、デザイナー、プランナーはもちろん、マーケティター、アナリスト、コンサルタントなどの多様な専門性を有する人に加え、課題意識を持つ人や社会起業家など、活動領域やバックグラウンドの異なる人の参加を促すことがアイデアソン/ハッカソンの成否を左右する。

 多様な参加者を確保するには、さまざまなコミュニティとの接点づくりを日常的に行うことや、SNSなどを活用した呼びかけが必要となる。もちろん、募集に当たってのテーマ設定についても、呼び込みたい領域の人材が興味関心を持つようなものにすることが求められる。

6. アイデアソン&ハッカソンの抱える課題

 最後に、アイデアソン&ハッカソンが抱える課題について触れておこう。2014年に入り、さまざまな領域、地域で開催が相次いでいるが、いくつかの課題も明らかになっている。

 第一に、「アイデアソン/ハッカソンが本当に価値を生み出しているのかどうか」という指摘である。時間的制約の中で、本当に事業化までを見据えたサービスの開発は難しく、これまで各地で開催されたイベントと同様、その場限りの取り組みとなっている場合も多い。「現実の社会的課題解決を図ったり、市場性のあるサービスを生み出したりしきれていない」という声もある。その一方で、せっかく生み出された成果が埋もれてしまっていることも課題である。

 第二に、参加者の同質化である。一般に言われる課題として、デザイナーの不足や地方ではエンジニア不足が挙げられる。多数のアイデアソン/ハッカソンが開催される中で、にわかに指摘されているのが、「いつも同じメンバーが参加している」というものだ。アイデアソン/ハッカソンを渡り歩くエンジニアも見受けられ、どこに行っても同じようなメンバーで開発を行っており、結果として、アイデアソン/ハッカソンの特徴であった多様性や創造性、異分野の交流という機能が弱まっている状況も見受けられている。

 第三に、アイデアソン/ハッカソン疲れの危惧である。毎週末、どこかでアイデアソン/ハッカソンが開催されており、飽和気味の感も否めない。時には、内容はこれまでワークショップとして地域で開催されてきたものの、看板の掛け替えだけにとどまっているケースもあり、先述の通り、持続的に成果が見える化しなければ、参加することに疲れてしまい、一瞬のブームで終わってしまう危惧がある。

 第二の課題と同様、参加者が一定の範囲に限られていることで起こる問題でもある。しかし、アイデアソン/ハッカソンに参加し得る層は、エンジニアか否かに限らず、テーマや参加対象者の設定、告知の工夫などでまだ開拓の余地がある。ハッカソン競技会として開催されたSPAJAM2014の地方予選では、郡山、大阪、福岡の3会場とも、学生や地元ベンチャーなど、ハッカソンを初めて体験した参加者が半数以上を占めたほか、地域課題解決を図るアイデアソンなどでは、少しずつではあるが、地元住民や自治体職員などの参加も得られ始めている。

 第四に、「イノベーティブなアイデアやサービスが本当に生まれているのか」という指摘である。確かにこれまでのイベントに比べて短期間でプロトタイプが見える化しているものの、そこで開発されたサービスのほとんどが、どこかですでに公開されているサービスの焼き直しであったり、他のアイデアソン/ハッカソンで生み出された成果と似ていたりするという声も聞かれる。

 第五に、知財の問題である。アイデアソン/ハッカソンは、自由でオープンな場を通じて集合知を具現化する点にその特徴がある。しかし、それは逆に、そこで生み出されたアイデアは誰のものなのか、という問題を生み出す。この点については、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)の小林茂准教授が、弁護士の監修を受け、参加同意書のフォーマットとして「makeathon_agreement」や「co-creation_project_agreement」などを作成・発表し、対応を始めており、今後の活用が期待される。

 そして最後に、場づくりをトータルにファシリテーションできる人材の不足である。アイデアソン/ハッカソンの全体企画や運営をコーディネートでき、場をマネジメントすることのできる人材は決して多いわけではない。特に、全体での合意形成を図ることが狙いでもないため、一般的なワークショップや場のファシリテーションスキルだけではなく、技術など多方面の領域に対する見識と、アイデア創出・収束手法を状況に合わせて使いこなせる高い能力が求められる。また、必要に応じてビジネスモデルに対してアドバイスをするようなコンサルティングの知識や他のコミュニティなどをつないでいくコネクティング能力など、求められる能力は多く、そうした人材はまだまだ少ない。それを受けて、アイデアソン/ハッカソンの企画・運営を専門的に行う企業も現れ始めており、人材・組織双方での能力向上が待たれるところである。

 以上、簡単ではあるが、前後編の2回にわたって、co-creation(共創)を生み出す手法として注目されるアイデアソン/ハッカソンについて事例やその特徴、課題について振り返った。

運営のポイントは下記に整理されているのでご覧ください。

須藤 順(すどう じゅん)

高知大学地域協働学部 講師

博士(経営経済学)。
医療ソーシャルワーカーに従事後、医療関連施設の立ち上げと経営に参画。
その後、中間支援機関においてコミュニティ/ソーシャルビジネスのコンサルティング、まちづくり/コミュニティデザイン支援、農商工連携/6次産業化等の支援を担当。
2014年10月より現職。
専門は、社会的企業論/社会起業家論、コミュニティデザイン論。
全国各地のコミュニティデザイン/ソーシャルデザイン支援やコミュニティビジネス/ソーシャルビジネス支援、アイデアソンファシリテーターを展開。

筆者執筆の書籍の紹介

 アイデアソンについてより詳しく学びたい方へ。本連載の筆者らによる書籍『アイデアソン!: アイデアを実現する最強の方法』が、2016年9月13日より発行されます。

書籍は以下のような目次構成となっています。
第1部「アイデアソンを知る」 アイデアソンとは?/共創を生み出すアイデアソン/アイデアソンを成功させるポイント
第2部「アイデアソンを作る」 企画作りのポイント/ファシリテーターを立てる/フォローアップ/当日の構成 etc.
第3部「アイデアソンを体験する」 リクルート、ソニー/ヤフー/富士通/パイオニア/NTTドコモ etc.
第4部「アイデアソンのメソッド」 自己紹介ワーク マイプロme編/スピードストーミング/マンダラート/リーンキャンパス作成ワーク etc.

Co-Creation(共創)を生み出す新たな手法「ハッカソン&アイデアソン」(後編)
1. ハッカソン/アイデアソンとは? その類型と特徴、開催事例

アイデアソンとハッカソンの概要と、その事例を紹介。多様なハッカソン/アイデアソンを理解しやすいように、「テーマ」「主催者」「目的」という切り口で分類する。

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