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Build Insiderオピニオン:arton(1)

Build Insiderオピニオン:arton(1)

2016年、本格導入から4年目を迎えるRFIDの現状とウソ・ホント

2016年1月5日

Ruby/C#/Javaなどのプログラミング言語に精通しているarton氏がオピニオンコラムに初登場。今回のテーマは、本業であるPOS周りの話題からRFIDについて。

arton
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 2013年のRFID元年*1から3年がたったので、ここではRFIDの現状がどうなっているかについて書いてみよう。ただし、ここでのトピックは店舗でのチェックアウト回りに限定する。棚卸しなどのバックヤード業務や、ロジスティクスについてはスコープ外とする。

RFIDの現状

RFID

 少なくとも小売に関しては、徐々にではあるがRFIDが浸透しつつある実感はある。とはいえ、バーコードに比べればRFIDタグの単価は比較にならないくらい高価格なので、スーパーマーケットのように一商品当たりの利幅が小さい業態にRFIDが導入されることは当分ないだろう。また、ラベルの大きさに関して、バーコードよりも自由度が低いのもRFIDのネックだ。

 大きさについては当初の報道の「ゴマ粒」という形容のおかげで、いまだに勘違いしている人がいるようだ。確かにICチップそのものはゴマ粒よりも小さいが、起電するためのアンテナが必要なため、結局はインレイ(=チップとアンテナのパッケージ)のサイズで考える必要がある。

 すると現状では、RFIDを利用できる業態がアパレル(比較的高価格帯で、しかももともとそれなりのサイズの値札や商品コードのラベルを持つ)中心になるのは、コストと技術面からは自然だ。もともとビジネス戦略としても、サプライチェーンマネージメントが重視されているのだから、アパレルからRFIDが浸透しているのはうなずける。

RFIDのメリット

 RFIDを商品バーコードの代わりとするメリットとされるのは次の4点だ。

  1. 完全な単品(個品)管理ができる=トレーサビリティの確保が容易
  2. 電子的な操作のため、ラベルの書き換えが可能
  3. 一度に複数の商品をスキャンできるため、レジ処理を高速化できる
  4. 別途、盗難防止タグを付ける必要がない

 これらのメリットは現状の技術と現実的なコストの範囲では、半分本当で半分嘘というところだ。それぞれについて見てみよう。

1. 完全な単品管理ができる

 1について、「バーコードとRFIDで蓄積可能な情報量の観点から、RFIDの方が単品管理に向いている」という話をしているのであれば、RFIDはGEN2*2の96bit以上が利用できるが、2次元バーコードを利用すればさらに小さな面積で高密度の情報を蓄積できるので、正しくない。またEPC*2による標準化はまだ発展途上であり、タグのコード体系もJAN/EANほど厳密な運用はされていない。そのためメーカー~小売りが独自に定めたSKU(最小管理単位)と個体番号を2次元バーコードに埋め込んで運用するのとそれほど変わらない状況である。

 結果的にRFIDだからこそ完全な管理ができると言い切ることはできないため、単品管理可能な点をもってRFIDのメリットというのは無理がある。

  • *2 サプライチェーンに関連する国際規格を策定する機関であるGS1(Global Standard One)が中心となって定められたバーコードに変わる製品コード体系にEPC(Electronic Product Code)がある。GEN2は、RFID用の物理/論理層にまたがる規格で、EPCに96bitを利用できる。

2. 電子的な操作のため、ラベルの書き換えが可能

 印刷したらそれで終わりとなるバーコードと異なり、インレイの時点では、個体管理のためにRFIDプリンターの連番発行機能を利用でき、かつ間違えた場合には廃棄ではなく再書き込みできる点は確かにメリットと思える。

 しかしRFIDの価格を考えれば、印刷(書き込み)ミス=廃棄というのでは逆に困る。さらに実際に商品に添付されたときには、品番なり価格なりを印刷した商品タグに組み込んだ形態となるので、間違って書き換えることがないようにするという、バーコードにはなかった考慮が必要となる。

また、いくら書き換えが可能だからといって、商品タグとなったRFIDをチェックアウト後に再回収して仕入れ先へ戻し、EPCを書き換えて再利用するとなると運用コストと現在のRFIDの価格の兼ね合いからはあまり現実的とは言いにくい。結局、この点はバーコードと比較してメリットだというのは無理があるというよりもおこがましい。

3. 一度に複数の商品をスキャンできるため、レジ処理を高速化できる

 店舗におけるRFIDの醍醐味(だいごみ)は3だ。これがRFIDの一番面白い点ではある。しかし光あるところには影がある。光は当然なので影を先に書いてしまおう。

 チェックアウトする商品が複数(例えば10個)あった場合、熟練したレジ登録者であれば、「タグからバーコード部をちぎって並べてハンドスキャナーで連続して読ませる」という技を持つ。10個のバーコードを連続的に読み込ませる速度とRFIDによる商品10個のスキャン速度を比較すると、実はRFIDは勝てないことが多い(ちぎる時点から比べれば勝てるが、スキャン開始時点から比べると勝てない)。同時に複数のRFIDタグを読ませるのはなかなか難しいのだ。

 勝たせるために手っ取り早いのは、RFIDリーダー側アンテナの電波出力を強くして読み取り感度を良くする(正確な言い方ではないがご容赦願いたい)ことだが、電波の到達距離も伸びてしまうため、たまたま反射した反対側にある無関係の商品のタグを読み込んだり、レジの前を通りかかった人が手にしている商品のタグを読み込んだりしかねない。

 逆にRFIDタグ側のアンテナを大きくして電波の受信範囲を広くすると、リーダー側のアンテナの出力を強くしたときと同じく、チェックアウトされる商品とは無関係な商品の電波を拾ってしまう可能性が高まるし、そもそもインレイが大きくなるため商品ラベルに合わなくなる。レジ周りのレイアウトを工夫して読み取り専用のホットスポットをうまく作ればどうにかなるかもしれないが、新規出店でレイアウトを自由に設計できるのでもない限りあまり現実的な話ではない。実際のレジ回りの運用では、むしろ誤読み込みを防止するためにリーダー側のアンテナ出力は弱めた方がよいくらいである。

 ではレジ処理を高速化できないのかというとそうでもない。熟練していないレジ登録者でもそれなりに効率よく読めるし、買い物客が直接作業するセルフレジであれば特に効果は大きい。

 もちろん現実問題としては、一度に読ませる個数を制限したり、商品を置く位置を工夫したりといったレジ回りの運用設計と試行錯誤は必要となる。それでも、商品に貼られたバーコードを探してうまくスキャナーの光を当てることに比べたらはるかに簡単だ。ただ惜しむらくは、セルフレジに向いた業態(スーパーマーケット)は商品単価が低めなために、RFIDタグが合わないことにある。もっとも、Tシャツ専門店、Yシャツ専門店などの業態であればチェックアウトをセルフ化し、店員は買い物客がうまく操作できなかったときだけ補助に入り、通常時はコーディネーターに徹するという運用は十分に現実的だろう。

4. 別途、盗難防止タグを付ける必要がない

 4は二重に重要である。盗難防止タグの代わりにRFIDを利用するには、チェックアウト時にRFIDを「殺す」(言葉が生々しいので「KILL」と表現することが多いが、ここでは日本語を使う。ON/OFFスイッチの回路を殺すことで二度と起動できなくする自殺コマンドをICチップに実行させることを、ここでは「殺す」と書く)のが簡単だ。

 商品に付いているRFIDは生きているのでゲートに対して応答する。しかしチェックアウト時にRFIDを殺せばゲートに対して無反応となる。このことを盗難防止に利用できるのだ。これが第1の利点だ。

 それに加えてこの方法にはもう1つ利点がある。

 消費者に生きたRFIDをそのまま渡すことは買い物客のプライバシーへの脅威となる。経産省は『電子タグに関するプライバシー保護ガイドライン』を提供しているが、このガイドラインの対象となるのは「消費者に物品が手交された後も、その物品に電子タグを付けたままにしておく場合」とされている。

 従ってチェックアウト時点でRFIDを殺すことは、ラベル回収などの手間をかけずにプライバシー保護ガイドラインに抵触しない状態にできることを意味する(電子タグは付けたままであるが、死んでいるため対象外と想定できる)。

 つまりRFIDをチェックアウト時にうまく殺せるのであれば、生きている間は盗難防止タグと商品コードタグ(PLU*3に利用するかどうかは別問題だが含めてもよい)の両方の役割を果たし、チェックアウト時に殺してしまえば盗難防止タグをカッターで切って外したりする作業とプライバシー保護のための考慮が不要となる(システムとしてのプライバシー保護設計そのものが不要になるのではない点に注意。また必ず殺すことと消費者の選択権の両立などについては別途考える必要がある)。問題はどうタグを読むかと同じく、どう殺すかを運用面と技術面の両面からうまく設計する必要がある点だが、長くなるので割愛する。

  • *3 Price Look Up。バーコードあるいはRFIDに記録されている商品コードを読み込み、それを基にその商品の価格などの情報を取得すること。

 路面店の魅力は、少なくとも路面店に魅力を感じている人にとっては、現物の質感、店員とのコミュニケーション、店構え(建物、内装、陳列などなど)から受ける印象によるショッピング体験にある。ショッピング体験はチェックアウトで完成するわけだが、ここをどう演出するかを考えた場合に、RFIDはよくも悪くもまだ半分は夢のような存在だ。悪い夢については今後の技術革新や運用に関する知見の広まりで覚ませばよい。良い夢の部分をうまく生かして楽しいショッピング体験を演出したいものだ。

arton

arton

 

 

 垂直統合システムベンダーに所属し、比較的大規模なOLTPシステムの端末からセンターシステムまでの設計、開発に従事している。著書にJava、C#、Ruby関連のものがある。

 

 

 

 

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