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Build Insiderオピニオン:大関興治(5)

Build Insiderオピニオン:大関興治(5)

2年目となった海の家プロジェクト。2014年の結果は如何に?(後編)

2015年2月3日

2014年の海の家プロジェクトは成功したのか失敗したのか。読者と担当をやきもきさせた後編がついに登場。夏はアツかったのかサムかったのか!?

大関 興治
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 読者の皆さま、明けましておめでとうございます。皆さまにとって素晴らしい1年となりますよう心よりお祈り申し上げます。

 さまざまな事情がありまして、後編が1月になってしまいました。大変申し訳ありません。

 真冬ではありますが、アツかったあの夏をちょっとイメージして読んでいただければと思います。

 2回目のチャレンジとなった2014年海の家プロジェクト。今回は後半戦をメインに今年得た学びを書きたいと思っています。

ハイシーズンの台風直撃が浜にもたらしたもの

 覚えている方もいらっしゃることと思いますが、2014年はお盆の前半・後半ともに荒天にみまわれ、浜には悲観的なムードが漂いました。

 現在、全ての数字が出そろっているので先に結論を書いてしまうと、2014年の江の島東浜へのシーズンカウント人数(7~8月)はトータルで69万人。

 海の家を始めるに当たり入手した約20年分のさまざまなデータを持っていますが、ハッキリいって「過去最低」です(笑)。東日本大震災の年がそれまでで最低の動員数だったのですが(当たり前ですね)、それでも約80万人です。

 近場のレジャーとしての江の島の導入人員は年々減少気味なのですが、それでも69万人はヒドイ。ここ5年の平均値でも90万人です。

 あるデータによると客単価が1800円程度(ウチのデータでは1100円です)といわれているので、約4億円弱の逸失です。もちろん海の家の利用料を含めると、もっと大きな数字になると思われます。

 これを東浜の海の家で割ってみると……東浜には19件の海の家がありますので、単純に一軒に直すと約2000万! とんでもない額ですね!

 実稼働約45日で例年比2000万円の逸失です。本当に自然相手の商売の怖さを知る2014年の活動でした(もちろんその逆もあるのでしょうけどね)。

被害が大きいからこそ両極端な結果に

 ご存じの通り、私たちは海の家が本業ではありません。いくら実験・研修の場とはいえ、何千万円も赤字を出してまでやる意味はありません。

 初出店の2013年は「やってみよう」の精神で行いましたが、2014年はできる限りのことを実践してみました。もちろん荒天の被害は予想しておりませんでしたが、私たちにとって今後の運営の大きな参考になる結果を得ることができました。

 まずは電子調達(いわゆる会員制のB to B Webシステムです)を採用しました。2013年12月に路面店を出しましたので、いわゆる「業販」の購買資格を取得していました。リアル店舗もネット店舗も業販の会員になるためには営業許可証が必要なケースが多いので、昨年は利用できなかったのです。

 これらの電子調達システム、このサイトをご覧の方々の大半は、一見「ショボイなー」と思われるのではないかな? と思うようなUI(ユーザーインターフェース)や仕様のものが大半なんですが、リアルビジネスをする人々にとっては非常に助かるのではないかと思うような内容でした。実際に逆提案のような仕組みも使ってみました。

 欲しいアイテム(例えばラーメンの麺)があったとして、「いつ・どこに・どれくらい・どのようなものを」欲しいのかを登録しておくと、たくさんの業者さんがご提案してくれます。これらを比較して発注ができるという大変便利なサービスです。

 次に販売予測をかなり緻密にやってみました。

 まずは2013年の海の家のデータが功を奏しました。2013年のデータと、2014年の暦に基づき、大きく日別に4段階(A、B、C、D)の販売予測テーブルを作成しました。

 この4段階が最終営業日までおおむねの目安として、まずは共有されました。これによって、材料の発注が誰にでも分かるようなフォーマットになっています(式の入ったExcelベースで作られており、共有はOffice 365で行いました。画像1)。

画像(1) 販売予測テーブル
画像1 販売予測テーブル

 例えばハイシーズン時の週末は「D」となっており、40万円の売上を想定したテーブルです。これらのアイテム内訳と材料の数量などが記載されていますので、参加メンバー誰でも段取りを付けられるようになっています。

 最後は販売予測に基づいた仕込み計画です。

 メニューは大きく分類すると2種類に分かれます。ある程度日持ちする食材で構成されているメニューと、生シラスのような即日廃棄する食材で構成されているメニューです。前者と後者のメニューを組み合わせることで、販売予測の数量(金額)を柔軟に変動できるようにしました。つまり、天気などのあらかじめ予想できる外的要因による影響を最大限回避するために、メニューのカテゴリ(主食系、おつまみ系など)が同じで、かつ同価格帯のもの同士を代替して再構成をするということです。販売予測テーブルをある程度無視してもよいルールとすることで、極力ロスを発生させないメニュー構成を即断即決のスピード感で実現できました。

 例えば、明日は生シラス丼の販売予測が「30オーダー」と定義されているが、天気予報は「雨、25℃」と予想した場合、生シラス丼の個数を減らし、ラーメンのオーダー数に振り替えることを許可しました。雨が降ってもお客さまが全く来ないわけではありませんが、大概の場合、「天気が崩れる=寒い」ということになりますので、お客さまも生シラス丼ではなく暖かいラーメンの方に流れます。このような振り替えによって、売上構成比こそ変わっても売上の金額自体は大幅に下方修正することも不要となります。かつ、たとえ来客数が著しく低かったという結果になっても、食材は繰り越せるものが大半となります(生シラスは即日廃棄だが、ラーメンの麺は3日間保存可能)。

 ちなみに引継書は手書きにしました(画像2)。オーダーから売上予測・修正など基本的にIT武装の海の家ですが、なぜ日報だけは手書きなんでしょうか。

 「エモーション」です(笑)。せっかくリアルな商売をやるのですから、どこか原始的で、その人のその日の苦労が伝わるように。

画像(2) 手書きの引継書
画像2 手書きの引継書

手書きの文字から引継書記入者のその日の奮闘ぶりが伝わってくる。

 まとめますと、「ネットによる食材調達によって、店舗は日頃どのように調達を行うのかを知り(どのようにコストダウンしているのかも含め)、昨年のデータから傾向を求め、今年のカレンダーに予想をマッピングし、天気予報に応じて前日に販売予測を再構成して、仕入れ指示を出す」ということです。

 技術的な側面で話をしてしまうと見えにくいリアルな「現場感」も、このような取り組みを行うことでスタッフ自身が大きな体験として実感できます。

 この一連の流れによって飲食のリアルビジネスの大事なポイントと流れが見えてくるわけです(調達コストの削減・売上機会の最大化・食材廃棄の最小化)。

 こういった実践によって、日頃座学ではなかなか伝わらないいろいろな面を「自ら感じて」もらうことによって育てて見たかったのです。

 おかげさまで結果は上々となりました。

 台風の影響で、目標売上額対比では110万円の機会損失となりましたが昨年対比で約160%の売上。7%の増益(粗利)となりました。

 IT従事者でも飲食プロの運営者たちに対等に勝負ができる機会もある。

 もちろん美味しい商材あってのことではありますが、IT(クラウド+デバイス)の利活用で素人の自分たちでもここまで戦えた。

 この夏の経験で、これまでITしか知らなかったスタッフたちは、さまざまなチカラを得た。

 2013年、2014年とテナント出店の形式で海の家に携わってきましたが、2015年は運営者側にチャレンジします。

 クラウド×デバイスによる運営はもちろん、NFCやパートナーさまのソリューションとのさらなる連携にもチャレンジしたいと思っております。コラボレーションなどにご関心ございます方は、ぜひお声掛けください。

 数回にわたり海の家をテーマにお話しさせていただきましたが、次回からはリアル店舗運営へのチャレンジに話題を変えたいと思います。こちらのテーマは「いわゆる間接部門の人々で、どこまで運営のためのソリューション計画ができるか」をお話ししたいと思います。

 最後に昨年の海の家プロジェクトの実績を以下にまとめておきますので、ご覧ください。

2014年度の海の家プロジェクト実績まとめ

大関 興治(おおぜき こうじ)

大関 興治(おおぜき こうじ)

(株)セカンドファクトリー Chief Visionary Officer

大手私立大学の情シスにて(SI企業より出向)学内システムを構築したのがキャリアのスタート。メインフレームからのダウンザイジングを経験すると同時に、Webテクノロジに大いなる可能性を感じていたこと、あるキッカケを得て、1998年にセカンドファクトリー社を設立。

一貫してビジネス&UXを重要視したチーム形成と開発スタイルを提唱。現在は関連会社2社の取締役ほか、複数の非IT企業の社外取締役として「ヒト」づくりがメインの仕事、かつライフワーク。

 

※以下では、本稿の前後を合わせて5回分(第2回~第6回)のみ表示しています。
 連載の全タイトルを参照するには、[この記事の連載 INDEX]を参照してください。

Build Insiderオピニオン:大関興治(5)
2. エンジニアたちが海の家をやってみた

「非ITアタマ」を創るために始めてみたこのプロジェクト。なぜ海の家にしたのか? どんな効果があったのか? 昨年の模様を振り返える。

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3. ミライ型エンジニア?

「非ITアタマ」を創るために始めてみたこのプロジェクト。なぜ海の家にしたのか? どんな効果があったのか? 昨年のもようを振り返える。

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4. 2年目となった海の家プロジェクト。今年の結果は如何に?(前編)

今年の海の家プロジェクト、お盆までの前半戦の出来事を紹介。台風の影響をもろに受けた今年のお盆商戦。そんなとき現れた○○おやじとは?

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5. 【現在、表示中】≫ 2年目となった海の家プロジェクト。2014年の結果は如何に?(後編)

2014年の海の家プロジェクトは成功したのか失敗したのか。読者と担当をやきもきさせた後編がついに登場。夏はアツかったのかサムかったのか!?

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6. モバイル+クラウドで「海の家」の運営はどこまで進化する? 3年目のチャレンジ(導入編)

今年も夏がやってきました! セカンドファクトリーでは今年も海の家やってます! ITを駆使した海の家がどんなものか。息抜きを兼ねて現場を訪れてみはいかが?

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