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Build Insiderオピニオン:長沢智治(2)

Build Insiderオピニオン:長沢智治(2)

ビジネスは変わった、ソフトウェアはどうか?

2014年6月24日

ビジネスは技術革新によって変わってきている。では、アプリケーションはどう変化していくべきなのか。

アトラシアン 長沢 智治
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ビジネスは変わった

 前回も述べたようにビジネスは技術革新によって変わってきている。今までは B to B で行わなければならないビジネスが、B to C で行われるようになってきている。これは、各種デバイスの活用と、そのバックエンドでのクラウドをはじめとしたサービスの連携によるところが大きい。今までは、企業間取り引きや営業担当を介さなければならないところが、技術のチカラで直接コンシューマーに届くようになったということだ。

 ただ、それにより競争は激化することが想像できる。よりよいサービスがあれば人々はそれを選択できる。一時、競合他社をリードしていたとしても、それがいつまでも続くとは限らない。新たなビジネスアイデアや技術の到来により逆転することだって普通にある時代なのだ。

 ビジネスアイデアの実現が、たやすくなったのも技術のチカラが大きい。今までなかったビジネスモデルの創造であったり、地道に手の届く範囲で展開していたビジネスモデルが、日本全国規模や世界規模に展開できたり、数十人のニーズに応えていたサービスが数億人のニーズに応えられることの発見であったりだ。

アプリケーションはどう変化していくべきなのか

 コンシューマーにとって分かりやすくよりよい体験を提供できることは、これからのビジネス、ソフトウェアの価値にとって大切なキーワードとなることは、想像しがたくないだろう。5年以上前からユーザーエクスペリエンス(UX)という言葉がでてきたように。ただし、これからは、ユーザーの満足するものだけでは、不足するかもしれない。ユーザーの期待に応えるだけではなく、「ユーザーの期待を超える(User Delight)」体験を提供できてこそ、そこにビジネス機会が生まれてくる時代はさほど遠くない未来に訪れるのだろう。

検索と閲覧の体験から、知って行動する体験へ

 私は、2009年ごろよりビジネスの進化と開発プロセス、プラクティスの実行力から、先に述べたことが起こることを予想し、エバンジェリストとしての活動を行ってきた(2007年よりマイクロソフトでエバンジェリストとしてスタートし、2014年よりアトラシアンでエバンジェリストを継続している)。ただ、そこではこれからのアプリケーションがどう変わっていくのか、より具体的に従来のアプリケーションとの差異をうまく説明することができていなかった。

 UXというと「3Dで表記されて~」や「データを統合的に可視化できるので~」というお決まりのセリフを耳にしながら、それへの違和感を拭いきれていなかったのだが、2013年1月に米国ワシントン州レドモンドのマイクロソフトキャンパスで開催されたALM Summit 3において、ある講演を聴くことができ、もやもやとしたものが一気に晴れた。

 その講演とは、James Whittaker氏の「A New Era of Computing」という総会セッションだ。

 James氏は、マイクロソフト社から、グーグル社へ渡り、Chrome、Google Maps、Google+などに携わった人物として知られている。「Googleにおける品質保証 (InfoQ)」の記事や「How to Break Software」シリーズの著者としても知られている。彼は現在、マイクロソフト社に戻ってきてさまざまな活動をしているのだが、彼の持つ視点は、全てのエンジニアにとって非常に重要だと感じたのを今でも覚えている。

 講演で彼は、“Magic”について時とともに変わってきたということを示した。

  • 1990年代: Store & Compute
  • 2000年代: Search & Browse
  • 2010年代: Know & Do

 偶然にも、2010年より私も同じ時系列で、ビジネスとITの関係、そこでのテクノロジやプラクティスの変化について紹介することが多くなり、作成した資料は製品のカタログや各社の提案でも使ってもらえるくらい評価をいただいたのだが、それと同じカットでの解説でもあったため、私にとってはドンピシャなものとなった。

 ちなみに本題からは多少それるが、私が、解説に使っていた図を下に記しておこう(後に紹介するJames氏の講演ストリーミングをご覧いただく際の予備資料と捉えていただければ幸いだ)。

長沢によるビジネスとITの変遷の図

 さて、話を本題に戻そう。講演では、「Search & Browse」から「Know & Do」の変化をエンジニアやテクノロジを活用するビジネスパーソンにとって分かりやすい視点で解説をしてくれている。それが以下である。

  • Input(入力) → Intents (意図、目的)
  • SERP (Search Engine Results Page: 検索エンジンの結果ページ) → Answers (応答)
  • WebStructured Data (構造化データ)
  • BrowserMagazine (情報媒体)
  • Ads (広告)→ Offers (提案)
  • Apps (アプリ)→ Experiences (体験そのもの)

  なお、日本語稚訳は長沢によるものであくまで参考程度としていただきたく。

 例えば、知り合いの芸能人を食事会に誘うことになったとしよう。従来ならば、PCやスマホを起動する。そしてブラウザーまたは、検索アプリを起動し、検索キーワードを入力する。検索結果を見ながら自分で目星を付けてさらに検索をし、今回のニーズに合致するレストランがないか? その芸能人の趣味趣向、苦手な食べ物、マイブームと照らし合わせるのだ。これは、人は、情報収集に追われていると捉えることもできる。

 それに対して、これからの“Magic”では、ニーズをデバイスに向かって話しかけることになる。「芸能人の○○さんと食事するベストな場所を知りたい」などだ。すると、アプリが、各種の検索結果、サービスとの連動を駆使して、欲しい情報を教えてくれる。いくつかの候補を提案してくれ、そこからさらに絞り込む。そこで知ることができる情報は、待ち合わせ場所からのルートや所要時間、友人や芸能人たちの口コミ情報、当日の天気を加味しているかもしれない。

 そこで繰り広げられるデータ連携は、広告ではなく提案として利用者に提供されるので確度もより高くなる。利用者のニーズとビジネス価値へのエコシステムが成立する可能性が高い。

 iPhoneでのSiriなどは、これへのチャレンジと捉えると興味深い。また、これからのアップルやグーグル、マイクロソフトのテクノロジの動向を探る上でも、上記を押さえておくとより見通しが利くようになるのではないかと思う。

 彼のセッションでは、さらに、「Data is new currency」(データは新たな価値を生む)、「Data is currency of know to do」(データは「知って行動する」ための価値となる)という表現もでてきた。今のオープンデータへの取り組みの目的にも、上記で紹介したことはつながってくるだろう。

今を生きるエンジニアたちよ

 エンジニアがこれから起こす“Magic”に、エンジニアたるもの乗り遅れていてはならない。魔法使いは日本からもっとでてきてほしいと私は願う。

 今回は、私が感銘を受けたJames氏の講演をベースに話を展開してみた。これはあるエバンジェリストの解釈の視点と捉えてくれても構わないし、これからのエンジニアとして、よりよいソフトウェアを創っていく開発者のビューの設定や心構えのきっかけと捉えてくれても構わない。

 1つお願いしたいことがあるとしたら、James氏の講演には気づきが詰まっているので、それを一人でかみしめるだけではなく、現場の隣の人、上司や部下とかみしめてもらいたい。彼のセッションストリーミングをチームミーティングの「場」で視聴するのはいかがだろうか? 英語が分からなくても意図はくみ取れるよいセッションなのでお勧めしたい。

A New Era of Computing by James Whittaker

長沢 智治(ながさわ ともはる)

長沢 智治(ながさわ ともはる)

 

革新的なビジネスモデルでソフトウェアデリバリーを実践し続けるアトラシアン株式会社のエバンジェリスト。

ソフトウェア開発のライフサイクル全般を経験したのちに、日本ラショナルソフトウェア、日本アイ・ビー・エムなどでプロセス改善コンサルティングに従事。2007年より7年間、マイクロソフトのエバンジェリストを務め、2014年1月よりアトラシアンで初のエバンジェリストとして活動中。

 

※以下では、本稿の前後を合わせて5回分(第1回~第5回)のみ表示しています。
 連載の全タイトルを参照するには、[この記事の連載 INDEX]を参照してください。

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ソフトウェアの最新動向と現場について時には厳しく、時にはおちゃらけて等身大で語るコラム連載スタート。

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